Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
2016年12月16日
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一般社団法人 日本集中治療医学会
理事長 西村 匡司
倫理委員会委員長 丸藤 哲
関係各位理事長 西村 匡司
倫理委員会委員長 丸藤 哲
2007年に厚生労働省「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」が公表され、患者本人による決定を基本としたうえで、患者と医療・ケアチームの話合いに基づく意思決定プロセスを重視する考え方が終末期医療の主流となった。2014年に日本集中治療医学会は「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」を発表したが、この年は2007年版ガイドラインを改定した厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」が公表された年でもある。
この十数年間で終末期医療(人生の最終段階における医療)のあり方に関する理解が深まり、患者の尊厳を無視した延命医療の継続は大きく減少していると私どもは信じている。しかし、DNAR指示のもとに基本を無視した安易な終末期医療が実践されている、あるいは救命の努力が放棄されているのではないかとの危惧が最近浮上してきた。日本集中治療医学会理事会ならびに倫理委員会は、DNARの正しい理解に基づいた実践のためには下記の諸点に留意する必要があることを勧告する。
勧告
1.DNAR指示は心停止時のみに有効である。心肺蘇生不開始以外は集中治療室入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべきである(注1)。
2.DNAR指示と終末期医療は同義ではない。DNAR指示に関わる合意形成と終末期医療実践の合意形成はそれぞれ別個に行うべきである(注2)。
3.DNAR指示に関わる合意形成は終末期医療ガイドラインに準じて行うべきである(注3)。
4.DNAR指示の妥当性を患者と医療・ケアチームが繰り返して話合い評価すべきである(注4)。
5.Partial DNAR指示は行うべきではない(注5)。
6.DNAR指示は日本版POLST - Physician Orders for Life Sustaining Treatment - (DNAR指示を含む)「生命を脅かす疾患に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書」に準拠して行うべきではない(注6)
7.DNAR指示の実践を行う施設は、臨床倫理を扱う独立した病院倫理委員会を設置するよう推奨する(注7)。
注1
心停止を「急変時」の様な曖昧な語句にすり変えるべきではない。DNAR指示のもとに心肺蘇生以外の酸素投与、気管挿管、人工呼吸器、補助循環装置、血液浄化法、昇圧薬、抗不整脈薬、抗菌薬、輸液、栄養、鎮痛・鎮静、ICU入室など、通常の医療・看護行為の不開始、差し控え、中止を自動的に行ってはいけない。
注2
終末期医療における治療の不開始、差し控え、中止に、心停止時に心肺蘇生を行わない(DNAR)選択が含まれることもある。しかし、DNAR指示が出ている患者に心肺蘇生以外の治療の不開始、差し控え、中止を行う場合は、改めて終末期医療実践のための合意形成が必要である。各施設倫理委員会がDNAR指示と終末期医療に関する指針(マニュアル)を明確に分離して作成することを強く推奨する。
注3
厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」、あるいは日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」の内容を忠実に踏襲すべきである。
注4
DNAR指示は患者が終末期に到る前の早い段階に出される可能性がある。このため、その妥当性を繰り返して評価し、その指示に関与する全ての者の合意形成をその都度行うべきである。
注5
Partial DNAR指示は心肺蘇生内容をリストとして提示し、胸骨圧迫は行うが気管挿管は施行しない、のように心肺蘇生の一部のみを実施する指示である。心肺蘇生の目的は救命であり、不完全な心肺蘇生で救命は望むべくもなく、一部のみ実施する心肺蘇生はDNAR指示の考え方とは乖離している。
注6
日本版POLST (DNAR指示を含む)は日本臨床倫理学会が作成し公表している。POLSTは米国で使用されている生命維持治療に関する医師による携帯用医療指示書である。急性期医療領域で合意形成がなく、十分な検証を行わずに導入することに危惧があり、DNAR指示を日本版POLSTに準じて行うことを推奨しない。
注7
日本集中治療医学会倫理委員会が評議員を対象に施行した「臨床倫理に関する現状調査」では、臨床倫理を扱う独立した倫理委員会が設置されている施設は67.1%である。DNAR指示は臨床倫理の重要課題であり、終末期医療の実践とともにDNAR指示を日常臨床で行う施設は独立した臨床倫理委員会を設置するよう推奨する。