PICS 集中治療後症候群

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PICS対策・生活の質改善検討委員会 研究活動報告

1) 国内研究

ⅰ) 本邦の診療現場におけるpost-intensive care syndrome(PICS)の実態調査 (担当者:河合佑亮、一二三亨)
サマリー:診療現場におけるPICSの実態調査(web調査)を2019年4月8日から4月22日に実施し、日本集中治療医学会会員453名から回答を得た。結果、PICSやABCDEFバンドルの認識度は約6割であった。実践しているPICS介入では、早期リハビリテーションが92%であった。ICU患者の退室時あるいは退院時の身体・認知・精神機能障害、QOLの評価は約1割程度にとどまっていた。また、PICS外来やPICSラウンドを全ての患者で行っていると回答した割合は1%未満であった。
進行状況:委員会報告として論文掲載済み(日集中医誌 2019;26:467-75.)、論文(3-ⅳ 参照)。

ⅱ) 新型コロナウイルス感染症に伴う集中治療後症候群の研究: COVID-PICS Study (担当:畠山淳司、中村謙介)
サマリー:人工呼吸管理を必要とした重症新型コロナウイルス感染症患者の長期予後については、不明な点が多い。本研究の目的は、重症新型コロナウイルス感染症に罹患した患者を対象に、集中治療室退室6ヶ月後、1年後、2年後の身体機能、認知機能、メンタルヘルス、生活の質をアンケート調査し、後遺症の発症率などを調べることである。
進行状況:2020年2月と10月にアンケートを実施し、論文(3-vii 参照)発表済み。

iii) 集中治療室重症患者のPICS発生に関する調査研究 (担当: 飯田有輝)
サマリー:ICUを退室した重症患者では長期的に身体機能や精神機能、メンタルヘルスが障害されるPICSが問題となることが多い。PICSにおける3つのドメインが相互に影響を及ぼすかはあまり知られていない。本研究では、退院時におけるICU-AWの合併が、退院3か月後の精神機能や心的ストレスならびに日常生活活動にどのような影響を及ぼすか調査を行う。
進行状況:Japanese Intensive Care Research Group (JICRG)・日本集中治療医学会学会主導共同研究推進会議に申請中

iv) 本邦の診療現場におけるICU退室後のフォローアップに関する実態調査(担当者:井上茂亮、河合佑亮)
サマリー:PICSの予防・回復のためにはICU内での対策はもとより、ICU退室後の継続した対策が重要である。本調査では、日本集中治療医学会会員を対象に、PICSの予防・改善や評価等を目的または目的の一部として行うICU退室後のフォローアップ(ICU退室後患者への病床訪問やPICS外来の実施等)の現状と課題等に関するweb調査を行う。
進行状況:Japanese Intensive Care Research Group (JICRG)の承認を得た。Web調査実施に向けて、実施時期や調査票の最終確認・調整中。

v) 本邦のプライマリ・ケア領域におけるPICSの実態調査(担当:隅田英憲、井上茂亮)
サマリー:PICS対策は、急性期医療に携わっている医療従事者だけで解決可能な問題ではなく、退院後のPICS発症の有無やPICSへの継続的なケア・フォロー、患者家族の状況も把握しやすいと考えるプライマリ・ケア領域との連携が重要である。本調査は、日本におけるプライマリ・ケア領域でのPICSの現状を明らかにするため日本プライマリ・ケア連合学会の会員(全職種)の方を対象としたWebアンケート調査を日本プライマリ・ケア連合学会と共同で実施した。
進行状況:2020年9月~12月に実施。論文作成中。


2)国際研究

ⅰ) 集中治療室に入室した新型コロナウイルス(COVID-19)患者が受けているICUケアの実態を明らかにする国際アンケート調査: ISIIC Study (担当:劉啓文)
サマリー:新型コロナウイルスの影響(徹底した厳格な感染予防対策、コロナ患者急増によるICUへの業務負担増)は、今まで行えていた患者に有益なICUケアの実施を困難なものにしている可能性がある。患者に有益なことがこれまでの報告でわかっており、かつ様々なガイドラインがその実施を推奨しているエビデンスに基づくICUケア(例えば、鎮痛・鎮静・せん妄・リハビリテーション・家族ケアを含むABCDEFバンドルや栄養療法)の実施状況を調査し、何がその実施を妨げているのか、どんな要素があるとICUケアは行えるのかを調査するために、オンライン国際アンケート調査を行った。結果、ABCDEFバンドルなどのエビデンスに基づくICUケアの実施率は非常に低いことが明らかとなった。プロトコールの整備やCOVID-19専有ICUベッド数の調整などがエビデンスに基づくICUケア実施の重要な因子である可能性を示した。
進行状況:2020年6月3日・7月1日に実施し、論文(3-ⅴ 参照)発表済み。


3) 論文・執筆活動

ⅰ) 集中治療症候群(PICS)の病態と対策-集中治療の現場が変わる PICSとは 疫学・病態生理・リスクを中心に
井上 茂亮, 畠山 淳司, 一二三 亨, 西田 修
日本医事新報 (4967) 20 – 24, 2019年7月

ii) 集中治療症候群(PICS)の病態と対策-集中治療の現場が変わる PICSにどう向き合うか : 看護ケアと終末期・PICS-Fについて
河合 佑亮, 西田 修, 宇都宮 明美, 山川 一馬
日本医事新報 (4967) 26 – 31, 2019年7月

iii) 集中治療症候群(PICS)の病態と対策-集中治療の現場が変わる PICSの対策と今後の展望
畠山 淳司, 飯田 有輝, 井上 茂亮, 剱持 雄二, 中村 謙介
日本医事新報 (4967) 32 – 37, 2019年7月

iv) 本邦の診療現場におけるpost-intensive care syndrome(PICS)の実態調査
日本集中治療医学会PICS対策・生活の質改善検討委員会
日本集中治療医学会雑誌 2019 年 26 巻 6 号 p. 467-475
DOI: https://doi.org/10.3918/jsicm.26_467

v) ABCDEF Bundle and Supportive ICU Practices for Patients With Coronavirus Disease 2019 Infection: An International Point Prevalence Study
Keibun Liu, Kensuke Nakamura, Hajime Katsukawa, Shigeaki Inoue, Osamu Nishida, et al.
Crit Care Explor. 2021;3(3):e0353. DOI: 10.1097/CCE.0000000000000353.

vi) Post-intensive care syndrome: its pathophysiology, prevention, and future directions
Shigeaki Inoue, Junji Hatakeyama, Yutaka Kondo, Toru Hifumi, Hideaki Sakuramoto, Tatsuya Kawasaki, Shunsuke Taito, Kensuke Nakamura, Takeshi Unoki, Yusuke Kawai, Yuji Kenmotsu, Masafumi Saito, Kazuma Yamakawa, Osamu Nishida
Acute Med Surg. 2019;6(3):233-246. doi: 10.1002/ams2.415.

vii) Prevalence and Risk Factor Analysis of Post-Intensive Care Syndrome in Patients with COVID-19 Requiring Mechanical Ventilation: A Multicenter Prospective Observational Study
Hatakeyama, J.; Inoue, S.; Liu, K.; Yamakawa, K.; Nishida, T.; Ohshimo, S.; et al.
J. Clin. Med. 2022,11,5758. https://doi.org/ 10.3390/jcm11195758

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