小児集中治療部 設置のための指針

小児集中治療部 設置のための指針 ―2007年3月―

日本集中治療医学会 集中治療部設置基準検討委員会
妙中 信之(宝塚市立病院集中治療救急室):委員長・担当理事
落合 亮一(東邦大学医学部附属大森病院麻酔科学第一講座)
平井 勝治(奈良県立医科大学附属病院集中治療部)
松川 周(石巻市立病院麻酔科)
宮内 善豊(社会保険徳山中央病院麻酔・集中治療科)
安本 進(工業デザイナー,ホスピタルデザイナー)

日本集中治療医学会 新生児・小児集中治療委員会
羽鳥 文麿(国立成育医療センター総合診療部救急診療科):委員長
市川 光太郎(北九州市立八幡病院小児救急センター)
植田 育也(静岡県立こども病院集中治療科)
梅原 実(神奈川県立こども医療センター救急診療科)
我那 覇仁(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター小児科)
楠田 聡(東京女子医科大学母子総合医療センター新生児部門)
阪井 裕一(国立成育医療センター手術集中治療部)
桜井 淑男(埼玉医科大学総合医療センター小児科)
志馬 伸朗(京都府立医科大学附属病院集中治療部)
杉浦 正俊(杏林大学医学部小児科)
鈴木 康之(国立成育医療センター手術集中治療部)
竹内 護(自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児手術・集中治療部)
森田 潔(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科):担当理事

日本小児科学会 小児医療改革・救急プロジェクトチーム
中澤 誠(総合南東北病院小児生涯心臓疾患研究所):チームリーダー
青谷 裕文(医薬品医療機器総合機構)
岩佐 充二(名古屋第二赤十字病院小児科)
市川 光太郎(北九州市立八幡病院小児救急センター)
梅原 実(神奈川県立こども医療センター救急診療科)
長村 敏生(京都第二赤十字病院小児科)
阪井 裕一(国立成育医療センター手術集中治療部)
桜井 淑男(埼玉医科大学総合医療センター小児科)
田中 篤(新潟大学医学部小児科)
羽鳥 文麿(国立成育医療センター総合診療部救急診療科)
舟本 仁一(大阪市立住吉市民病院小児科)
前多 治雄(岩手県立中央病院小児科)
松裏 裕行(東邦大学医学部第一小児科)
森 俊彦(NTT 東日本札幌病院小児科)
安田 正(大宮医師会市民病院小児科)
山田 至康(順天堂大学医学部附属浦安病院救急・災害診療科)
和田 紀久(近畿大学医学部小児科)
渡部 誠一(土浦協同病院小児科)
藤村 正哲(大阪府立母子保健総合医療センター):担当理事
松井 陽(国立成育医療センター):担当理事

厚生労働科学研究費補助金 医療技術評価総合研究事業
小児医療における安全管理指針の策定に関する研究班
阪井 裕一(国立成育医療センター手術集中治療部):主任研究者
羽鳥 文麿(国立成育医療センター総合診療部救急診療科)
中川 聡(国立成育医療センター手術集中治療部)
伊藤 龍子(国立成育医療センター研究所成育政策科学研究部)
衞藤 義勝(東京慈恵会医科大学小児科講座教授)

目次
はじめに
指針の根拠と述語表現について
小児集中治療部設置のための指針

はじめに

日本集中治療医学会集中治療部設置基準検討委員会は、これまで集中治療の推進にふさわしい集中治療部のあり方について討議を継続し、2002年3月に「集中治療部設置のための指針」、次いで2004年3月に「CCU設置のための指針」を公表してきた。しかし、これらは主として成人を対象としたICU を想定したものであり、小児患者を対象とした新生児集中治療部(NICU: Neonatal Intensive Care Unit)や小児集中治療部(PICU: Pediatric Intensive Care Unit)については別途の策定が検討されていた。
現在、わが国で重症小児が治療されている場は、各診療科(小児科や小児外科、心臓血管外科など)の一般病棟における重症室、あるいは成人中心の集中治療部(ICU: Intensive Care Unit)などが多い。2003年度の全国調査によると、「看護単位が独立した小児集中治療室」は全国に16施設、総病床数は97床のみであり、先進諸外国に比較して施設数、病床数ともに著しく少ない(日本集中治療医学会調査)。それら先進諸外国のデータによれば、重症小児専用のICUを設置することによって小児重症患者の生命予後が改善されることが示されており、さらに、そこで治療を受ける小児のQOL(Quality of Life)の改善も十分に期待しうるとされている。
社団法人日本小児科学会小児医療改革・救急プロジェクトチームは、2004年、「わが国の小児医療・救急医療体制の改革に向けて―小児医療提供体制の改革ビジョン―」において小児医療体制のグランドデザインを公開し、その中で、「中核病院では24時間体制の小児救急医療を提供するとともに、小児集中治療室を運営することが望ましい」と述べている。
厚生労働省は、集中治療室の設置基準について「医科診療報酬点数表」に「厚生労働大臣が定める基準等」として記載しているが、これは成人を中心とする診療環境を想定したものである。また、小児を対象としたもののうち、NICUは新生児・未熟児を対象とする部門であり、すでに厚生労働省基準が存在しているが、PICUについては明確な基準は発表されておらず、新たな策定の必要性が検討されていた。こうした中、厚生労働省は、2006年、小児救急医療支援事業の一環として小児救急専門病床確保のため「小児重症病床」の整備を誘導・推進する補助金予算を計上したが、このことは小児救急医療の面から小児重症患者の適正な治療の重要性を認識し始めたことを示している。さらに、2007年2月、日本小児総合医療施設協議会から厚生労働大臣宛に「小児総合医療施設における小児救命救急センター充実支援の要望書」が出されるという動きもあった。
このように、学会および行政レベルにおいて小児に特化した集中治療病床の必要性が明確となり、PICU設置基準策定の意義について日本集中治療医学会と日本小児科学会の間で意見の一致がみられるに至った。これを受けて、日本集中治療医学会集中治療部設置基準検討委員会、新生児・小児集中治療委員会と日本小児科学会小児医療改革・救急プロジェクトチームが共同し、さらに厚生労働科学研究班(厚生労働科学研究費補助金医療技術評価総合研究事業:小児医療における安全管理指針の策定に関する研究班)とも連携して、ここに示す指針を策定した。指針の末尾に「解説」を追加したが、その中に本文の記載の根拠となった点や記載に至った経緯、運用上の注意点、本文では表現し切れなかったことなどについて言及した。
なお、本指針は厚生労働省基準(厚生労働大臣の定める施設基準 特定集中治療室管理の施設基準 保険局長通知保発第8号)の内容を変えようとするものではなく、PICU施設を新築・新設または改築・改組する場合に留意すべき点をわかりやすく解説するために策定したものである。言い換えれば、厚生労働省基準は国から集中治療施設としての認可を得るために満たすべき最低基準であるが、本指針はそれとは異なり、小児の重症患者に対して適切な集中治療を実施するために望ましい医学・医療面からの指針を目指したものである。日本集中治療医学会、日本小児科学会としては、最終的には本指針に沿った施設で小児重症患者の適切な医療が行われることを念頭に置くが、それまでの過渡期においては、それぞれの施設で、厚生労働省基準を満たした上で、各施設の置かれた状況に合わせて本指針を応用し、良好な集中治療環境を設計し構築すればよい。これと並行して、本指針に沿った施設に対する適正な診療報酬の設定など公的な財政面での裏づけのあり方の検討を進めることは当然のことで、各施設の個別的な企業努力のみではPICUの設置・普及はないものと考えている。

最後に、本指針は2007年3月時点において策定されたものであり、一定期間を経た後に見直されるのが望ましい。

指針の根拠と述語表現について

指針を策定するに当たっては、できるだけ科学的根拠に基づくよう努力したが、必ずしも根拠が明確でないものも多く、これらについては委員会によるrecommendations という形をとった。すでに報告されている諸外国の 設置基準(Recommendations あるいはGuidelines)や国 内におけるアンケート調査なども参考にした。
指針の述語表現には、主として「…であること」、「推奨する」、「望ましい」という三段階の表現を用いた。わが国には厚生労働省の設置基準がないため、PICUとして最低限必要な条件である場合には、「…であること」といった断定的表現を用いた。設備の項では日本規格協会(JIS)などにより義務づけられているものが多く、これらも「…でなければならない」などの断定的表現とした。最低限必要とまではいかないが、患者の安全性や治療の確実性などを確保するために強く望まれる条件には「推 奨する」という表現を用い、それぞれの施設の事情が許す限り備えるべき条件とした。また、備えておくとPICU業務の円滑化に重要な役割を果たすと考えられる条件などは「望ましい」とした。

小児集中治療部設置のための指針

1.病院内における位置付け
すべての診療部門の小児重症患者が入室対象であり、外科疾患、内科疾患を問わない。さらに、個々の地域での小児三次救急患者を積極的に対象とし、院外にも開かれている必要がある。すなわち、PICUとは一時的に生命が危険な状態にある、またはそのような状態が切迫している小児患者に対して、その原因、病態、基礎疾患を問わず、病院の総力をあげて治療する場である。院内外の急変患者、救急患者にとっては「最後の砦」であり、術後に全身管理の必要になる手術(開心術など)を受ける患者にとっては、安全に手術を受けるための「必要条件」となる。そのため、PICUは院内の小児医療資源を集約し、小児集中治療のノウハウを蓄積する場と位置づけられるが、同時にその地域の医療資源を集約した場でもある。
PICUは、病院の中央診療部門として看護単位が独立していることが推奨される。院内規定により定められたPICUの運営に関する委員会が存在する必要がある。また、小児集中治療に関する教育、研修および研究ができる部門であるべきである。

2.医療スタッフの配置
(1)医師
PICU に専従する医師が、常時、PICU 内に勤務していること。専従医には、日本集中治療医学会が認定した集中治療専門医、日本小児科学会が認定した小児科専門医など、小児集中治療に指導的立場にある人を1名以上含むこと。専従医はPALS(Pediatric Advanced Life Support)プロバイダーの資格を持つのが望ましい。
(2)看護師
看護師が常時、患者2名に1名以上の割合でPICU内に勤務していること。必要時には患者1.5名に1名以上の看護師を配置できる体制を整備しておくことが望ましい。重症集中ケア認定看護師が勤務し、指導的役割を担うことが望ましい。
(3)放射線技師
緊急撮影のための放射線技師が病院に常時勤務していること。
(4)臨床工学技士
PICU での業務に関与できる臨床工学技士が病院に勤務していること。
(5)臨床検査技師
緊急検査のための臨床検査技師が病院に常時勤務していること。
(6)薬剤師
PICU での薬剤管理・薬剤調製などに関与する薬剤師がPICU内に勤務することを推奨する。
(7)理学療法士
理学療法士が病院に勤務しており、PICUでの訓練に参画できることを推奨する。
(8)病棟内クラーク
事務的業務を行う病棟内クラーク(あるいは事務職員)を配置することが望ましい。PICU業務の円滑化を 図ることが期待できる。
(9)ソーシャルワーカー
PICU での患者および家族のケアを行うために、ソーシャルワーカーが病院に勤務していることを推奨する。
(10) 児童福祉士、保育士あるいはその他の小児ケアを行う専門職
PICUでの患者および家族のケアを行うために、児童福祉士、保育士あるいはその他の小児ケアを行う専門職が病院に勤務していることを推奨する。
(11)ボランティア
PICU での活動を援助するボランティアを積極的に受け入れるのが望ましい。 (付)上記各項でいう“常時”とは、勤務様態の如何にかかわらず午前0時より午後12時までの間のことである。PICU勤務の医師および看護師はPICU以外の当直勤務を併せて行わないものとする。

3.PICUフロア構成
PICUの運営には、病床以外に次のような種々の部門が必要である。したがって、フロアは病床スペースの数倍の面積が必要となる。そのレイアウトはスタッフの動線や患者搬送なども加味して考慮する。
フロアは、1)病床部門、2)診療処置・監視部門、3)情報管理部門、4)医療スタッフのカンファレンス室、5)器材室、6)供給部門、7)居住部門、8)臨床検査部門、9)教育部門、10)交通経路部門、にわかれる。諸室の詳細については後述する。
(1)面積
a.病室
PICUの病床数は6床以上とする。病室は、疾患の特殊性と患者の精神庇護重視の観点から個室が望ましい。病室面積とは、患者の病床として専用するベッド周り面積を指す。病室面積は、実効面積として総室部分では1床当たり20m2以上、個室においては25m2以上を推奨する。特定機能病院においては、これ以上の占有面積を持つ病床を有することが望ましい。空気感染隔離、予防隔離のための隔離室を最低1室設けるべきである。ベッドセンター間の距離(間口)は3.6m以上が望ましい。
b.スタッフステーション(ナースステーション)
スタッフステーションの適切な面積は、病床数から算出される日勤看護師数、および診療に従事する
医師数、コメディカルスタッフ数の状況により決定すべきである。 c.器材室
PICU内に専用の器材室を有すること。器材室面積は、保有する病床数1床当たり10m2以上であることを推奨する。小児患者は年齢・体格が多様であるため、医療機器、医療材料を多種類整備しなければならないことを考慮して、十分なスペースを確保する必要がある。
d.廊下
患者入退室経路、薬剤、医療器材、ゴミなどの搬送に利用する廊下幅は、内のり寸法で2.4m以上であることを推奨する。
e.その他の付属諸室
PICU業務を円滑に行うために必要な付属諸室は、医師室、医師控室、部長室、看護師室、看護師控室、看護師長室、技師(士)室、更衣室、情報管理室、検査室、調剤室、汚物処理室、洗浄消毒室、リネン室、医師当直室、トイレ、シャワー室、面談室、カンファレンス室、患者家族控室、配膳室などである。また、児童福祉士、保育士あるいはその他の小児ケアを行う専門職、ボランティアなどの職種のための控室を置くのが望ましい。付属諸室の配置や面積は施設の状況により決定すべきである。
f.総延べ床面積
病室、スタッフステーション、器材室、廊下、その他の付属諸室をバランスよく配置するための総延べ床面積は,保有する病床数に応じて1床当たり75m2以上が目安となる。特定機能病院においてはそれ以上の面積が必要となる。
g.天井高、柱間スパン
個室およびオープン病床のベッド上の天井高は2.8~3.0mが望ましい。また、柱間スパンは病室の配置や形状や使いやすさを左右するので、可能な限り広くとることが望ましい。大空間構造にできない場合、通常のラーメン構造の柱間スパンは7.2m以上が望ましい。
(2)各室が備えるべき要件
a.病室
床の耐荷重は1m2当たり1トン以上とする。医療ガス配管は1床当たり酸素×4、空気×2、吸引×3を推奨する。揮発性麻酔薬や一酸化窒素などを使用する可能性の高い施設では余剰ガス排気設備を設置する。
電源容量やコンセント数、院内感染防止のための手洗い、病室の配色、騒音、照度については後述する。病室には窓を設置しなければならない。
b.スタッフステーション(ナースステーション)
スタッフステーションは、すべての病床への動線が短く、すべての病床を直視できる位置に配置するのが望ましい。スタッフステーションには、患者生体情報モニタやビデオ監視システムの映像など患者に関連した情報機器、病院情報システムの端末、ナースコール、カルテなどの書類、シャウカステン、電話、ファクス、コピー機、インターホンなどが設置される。電話回線は院内用と院外用を設置する。院外用は直通回線とし、他医療機関との連絡に用いるほか、必要に応じて地域救急体制との直結回線、ホットラインとして設置する。薬剤保管と調剤のためのスペースは、スタッフステーションとは独立することが望ましい。電源容量、コンセントの数と位置、手洗い設備の設置などは状況を考慮して決定する。
c.器材室
診断・治療機器および医療器材・器具の収納、機器の保守管理のため、PICU内に器材室が必要である。医療配管、電源装置を必要とする。出入り口のドアは物品および機器の搬入・搬出に支障をきたさない大きさとする。物品管理のための病院情報システム端末を備えていること。
d.医師室、看護師室
医療スタッフが診療事務処理、調査研究、教育などを行うスペースである。電話、ファクス用回線、病院情報端末、インターネット回線などを備えることが望ましい。スタッフステーションとの連絡用インターホンは必須である。電源容量、コンセント数は使用人数や状況を考慮して設置する。飲食については衛生管理上の十分な注意が必要である。
e.医師控室、看護師控室
医療スタッフの休憩、飲食などを目的としたスペースである。医師控室と看護師控室、あるいは男女別に分離するなど、控室は複数あるのが望ましい。スタッフステーションとの連絡用インターホンは必須である。電話回線、インターネット回線を設置することが望ましい。給湯、給排水が必要である。電源容量、コンセント数は使用人数や状況を考慮して設置する。
f.部長室、看護師長室
管理上、PICU内にあることが必要である。連絡用インターホン、電話回線、インターネット回線などの設備、コンセントなどを設置する。
g.更衣室
病院内およびPICU内における更衣の形態や必要性に応じて、更衣室をPICU内に設置する。必要とされる広さは、更衣の形態および使用人数により異なる。トイレおよびシャワーを設備することが望ましい。
h.情報管理室
PICU内の患者生体情報管理システムのサーバーを設置するのが望ましい。空調および電源設備が必要である。システムのメンテナンスのために独立した電話回線を設置する。セキュリティの観点から、施錠可能である必要がある。
i.検査室
PICU内緊急検査のための検査機器を設置する。給排水設備、医療廃水設備、電源設備が必要である。電源容量およびコンセント数は設置する検査機器に応じて決定する。
j.調剤室
調剤室をPICU内に設置するのが望ましい。薬剤保管庫、調剤スペース、クリーンベンチを設置する。 給排水、排気、電源、電話、病院情報端末が必要である。
k.汚物処理室、洗浄消毒室
医療廃水設備、給湯・給排水、排気、電源(100Vおよび200V)が必要である。
l.医師当直室
医師当直室をPICU 内に設けるべきである。男女ともに利用することを考慮し、当直室数は複数とすること。ベッド数については、当該施設の診療内容を加味して決めること。内線電話、スタッフステーションとの連絡用インターホンを設置する。給湯・給排水を設ける。
m.トイレ、シャワー
PICU内に職員用トイレおよび職員用シャワー室が必要である。また、患者身体の消毒を兼ねた洗浄のためのシャワー室を設けることが望ましい。
n.面談室
患者家族への病状説明、インフォームドコンセント取得のための面談室をPICU内に設置すべきである。プライバシー保護および環境を考慮する必要がある。説明のため、情報コンセント、シャウカステンなどの設置が望ましい。
o.カンファレンス室
症例検討会や治療方針の討議、スタッフ教育の観点から、PICU内に設置することが望ましい。病院情報端末や生体情報端末を設置すること。シャウカステン、コンピュータ、ビデオ再生装置、スライドプロジェクタ、ビデオプロジェクタなどの会議用設備が必要となる。
p.患者家族控室
PICU内あるいは集中治療部に近接して仮宿泊の可能な家族控室を設置すべきである。家族のプライバシーを保護できる環境に配慮すること。スタッフステーションとの通信手段、トイレ、シャワーを確保すること。近傍に公衆電話が設置されていると利便性が高い。

4.医療機器
(1)PICU内に次の医療機器(器具)を常備していること。
a.救急蘇生装置(気管挿管器具、気管切開器具、用手人工呼吸バッグなど:新生児から成人までの各年齢層に対応できる物品をすべて有していること)
b.人工呼吸器(新生児から成人まで対応可能な機能を有する人工呼吸器を必要数、装備すること)
c.気管支鏡(ブロンコファイバースコープ)
d.除細動器(小児用パドル、パッドを有すること)
e.ペースメーカ
f.シリンジポンプ(0.1ml単位での調節可能なものであること)
g.輸液ポンプ
h.血液加温器
i.心電計(小児用電極を有すること)
j.血圧計(新生児、乳児、小児用マンシェットを有すること)
k.血液浄化装置(腹膜透析に必要な装置を含む)
l.光線療法装置
m.ポータブルX線撮影装置
n.生体情報連続モニタ(心電図、圧4チャネル、パルスオキシメータ、カプノグラフィ)
o.搬送用モニタ(心電図、圧2チャネル、パルスオキシメータ、カプノグラフィ)
p.体温測定装置
q.酸素濃度計
r.体重計
s.体温調節装置(インファントウォーマー、体表式ブランケット、送風式加温装置など)
t.超音波診断装置
u.小外科手術器具(静脈切開、胸腔・腹腔穿刺など)
v.無影灯
(2)PICU内に次の医療機器(器具)を有するのが望ましい。
a.高頻度振動換気が可能な人工呼吸器
b.心拍出量計/混合静脈血酸素飽和度モニタ
c.呼吸機能測定装置
(3)病院内に次の医療機器(器具)を有するのが望ましい。
a.IABP(大動脈内バルーンパンピング)
b.CT(コンピュータ断層撮影装置)
c.MRI
d.PCPS(経皮的心肺補助装置)/ ECMO(体外式膜型肺)
e.脳波計
f.ABR(聴性脳幹反応)
g.間欠的空気圧迫式マッサージ装置(深部静脈血栓症予防)

5.臨床検査
(1)PICU内で以下の項目が常時測定できること。
a.血液ガス分析
b.Na、K、Clおよびイオン化Ca
c.賦活凝固時間(ACT: activated coagulation time)
d.血糖値
e.ヘモグロビン値またはヘマトクリット値
f.CO-オキシメータ

6.設備
PICUは以下の諸設備を備えなければならない。諸設備とは電源、空調、給排水、医療廃水、医療ガス(酸素・吸引・圧縮空気)、照明および環境制御システムなどである。諸設備は該当する各種法令に基づいて法規・規格に適合し、定められた基準を満足するものか、それ以上のものでなければならない。
(1)電源設備
PICUに供給される電力は、他部門とは独立していなければならない。主力電源を幹線からPICU内の主配電盤に接続し、遮断回路のパネルに接続された分電盤を通じて分岐回路からPICU内へ配電する。主配電盤は停電時の瞬断に対応した系統別の非常用電源(一般非常電源、特別非常電源、瞬時特別非常電源)に接続する。ブレーカには分岐先の名称表示を明確にしておく。電気事故および電気系の火災などに対応するための安全対策・防災対策を十分備えなければならない。電気的な緊急事態のために電力を遮断しなければならない場合に、主配電盤に容易に近づくことができるのは必要不可欠なことである。非常電源など病院電気設備の安全基準はJIS T 1022-1996の安全基準に準じるものとする。併せて配電規定JEAC8001-1995に適合させること。
a.電源容量
電源は1床ごとにアイソレートされており、1床当たりの電源容量は50A以上あることを推奨する。
日常的に消費電力の大きな医療機器を使用する場合は、それに応じた電源容量を確保しなければならない。Macroshockやmicroshockなどの漏れ電流対策のため、電源は医用接地(保護接地,等電位接地)されていなければならない。
b.コンセント
PICU内の医療機器用コンセントは接地可能(3P)なものとする。各コンセントまたはコンセント群は、主パネル内の個別の回路遮断器を通じて配電されなければならない。コンセント数は1ベッド当たり40個以上を推奨する。コンセントは、壁に設置する場合は床上900mm前後の位置とするのが望ましい。
(2)空調設備
PICU内は、適切で安全な空気質条件を常時維持しなければならない。空調能力は基本的には部屋の容積と施設の要求仕様、換気回数によって定められる。室内空気の流れは、部屋の奥から入り口へ向かうようにし、空気感染防止を目的とした隔離のための個室は別空調を設置しなければならない。
a.空気清浄度
ISO基準(国際標準化機構)クラス7(手術室と同レベル)が推奨される。隔離のための個室において陽圧使用の場合にはISO基準クラス5(無菌室と同レベル)の維持が望ましい。
b.温度、湿度
オープン病室と個室は、それぞれで調温調湿装置を設けることを推奨する。冷暖房および加湿度の調整は患者の快適性に選択基準を置き、良好な室内環境を保持すべきである。調節のための温度センサーは他の熱源、外光、エアコンなどの影響を受けない場所で、患者ベッド位置に近い高さに設置する。
c.気流の制御
空気の流れは準清潔区域、一般清潔区域、汚染管理区域へと制御設定する必要がある。
(3)医療ガス、吸引設備
中央供給方式の酸素、圧縮空気および吸引などの設備は、「医療ガス配管設備(JIS T 7107-1997)」に準じなければならない。低圧および高圧に関する可聴、可視の警報装置をPICU内と中央監視センターの両方に設けなければならない。火災や過剰な圧力がかかった場合、あるいは保守のため供給を中断できるよう手動の遮断弁を両方の域内に設置し、かつ明示しなければならない。
(4)照明設備
一般的な頭上からの照明は、作業ごとに適切な明るさを確保するため作業灯および局所照明(無影灯を含む)などを設置する。昼間は十分な明るさを確保し、夜間は照度を落として睡眠をとりやすくする。夜間、照度を落とした場合に、医療スタッフの業務に支障をきたさない照明設備が必要となる。参考として、重症病室および回復室の照明については「照度基準工業標準(IES 照度表)」に記載がある。
区画単位の点灯・消灯が可能なこと。
(5)周辺環境
患者、家族、見舞い客および医療スタッフに与えるストレスを最小限にできるよう、自然の景観を考慮し、病室の配色、騒音などにも十分配慮する。
配色は、患者および医療スタッフのさまざまな身体的反応にも影響する。環境条件を考慮し色彩心理学に基づいて最適な色彩調整を図り、特に小児患者の心身安静を目的とした明るく楽しいデザインや色彩を考慮すべきである。また、必要に応じて,患者から見える位置に時計を設置するなど、時間感覚が持てるよう配慮する。PICU内の時計はすべて同時刻に合わせられているのが望ましい。
a.入り口、通路
PICUへの入り口は、他部署との床面の段差のないバリアフリー構造とする。ドアノブは腕や手首でも開閉可能な清掃しやすいものにする、通路の手すりは丸形のものにする、また、通路のうちストレッチャーの通る部分にはストレッチャーガードを使用する、などの配慮が必要である。
b.床・天井
床に絨毯やコルク製材などの使用は避ける、ノーワックスメンテナンスの可能な床材を使用する、などの配慮が必要である。床と壁にはR加工をとるなど清掃が容易となるよう配慮する。床の色彩や天井のデザインなどは明るく楽しいものとする。
c.壁・窓
壁には防カビ加工を施す。壁の色彩は明るく楽しいものとする。窓はペアガラスまたは2重サッシなど結露を防ぎ、かつ、埃がたまりにくいものとし、サッシ部分と窓の桟のレベルを同一にするなどが望ましい。室内にブラインドは使用しない。

7.他部署との位置関係、動線など
(1)他部署との位置関係
PICUは、救急部、手術部、回復室、放射線部、一般病室(小児)、リハビリ室、輸血部、検査室などと近接するか、アクセスしやすい位置関係にあることが望ましい。広域患者搬送の観点から、ヘリポートにもアクセスしやすいことが望ましい。エレベータは、搬送中の治療継続を念頭に置いた十分な広さが必要である。
医療内容によりPICUと他部署の位置関係のあり方は変化する。どの部署との位置関係を優先するかは、対象疾患、患者や医療スタッフの動線、物品搬送などを考慮して施設ごとに決定する。
(2)人的動線
医療スタッフと、患者および患者家族の出入り口は分離すべきである。来訪者とPICU内部との連絡のためにインターホンなどを設置する。患者の個人情報、プライバシー保護と搬送の利便性を確保するため、専用の患者動線を確保するのが望ましい。
(3)物的動線
薬剤、医療材料および医療廃棄物などの搬送ルートも利便性および安全性を考慮して設置すべきである。
(4)ステップダウン病床(Intermediate Care Unit)
PICUとは別に、ステップダウン病床を有することが望ましい。ステップダウン病床とは、PICUと一般病床との中間的な存在で、生命の危険は切迫していないがその可能性がある、という患者を安全に管理する場である。PICU、一般病床の「緩衝地帯」となる。

8.プライバシー保護
PICUにおける患児プライバシーの保護は重要である。特に、個人情報保護法の制定(2005年4月)により、これまで以上に医療側の配慮が求められている。プライバシー保護は、施設内におけるものと施設外(外部)に対するものの二つの観点から対応策が講じられるべきである。施設外に対してのプライバシー保護について、事故外傷・虐待などでは警察・メディアとの対応も必要となる。原則として警察の協力を必要とするが、情報提供に際しては、書面での協力依頼状や身分証明書の確認が最低限の必要事項である。メディアへの公表には、警察を窓口とするなど慎重な対応が望まれる。具体的には各施設の状況に合わせて決定する。

9.感染防止対策
感染防止の観点から、PICU設置時に留意すべき点について述べる(感染防止のための具体策を記載するものではない)。
(1)感染対策責任者
PICU内に、部署内での感染対策に関する権限を持った感染対策責任者(医師および看護師)を置くことが必要である。
(2)手洗い設備
標準予防策を実践するための手洗い設備は、出入り口(または病室出入り口)と、個室1室当たり1箇所、open floor にあっては2床当たり1箇所程度設置する。シンクは水跳ねのしない構造で、シンクに手を入れる前に流水が流れるものがよい。手洗い水の温度は調節可能であること。手洗い水は基準を満たした水道水でよいが、貯水槽を使用する給水システムの場合は水質検査の必要がある。手洗い設備には壁掛け式の石けん、消毒剤、ペーパータオル、手袋などを設置する。
なお、速乾式手指消毒薬による手洗い法が手洗い遵守率を高める現実的な方法であるので、おのおのの手洗い設備、入り口、ベッドサイドに標準装備しておく。
(3)空調設備
病棟内の空気清浄度を上げることにより集中治療部内における感染症発生頻度が減少するという直接的な根拠はないが、易感染患者を収容すること、および感染の機会が多いことを考慮し、前述の空気清浄度を維持することを推奨する(6.(2)空調設備を参照)。塵埃の空中滞留を短くする観点からは、吹き出しは患者上方の天井面、吸い込みは患者の枕元や足元などの壁面下方が望ましい。
PICUにおいては、成人患者を対象としたICUと比較して、空気感染する感染症を持つ重症患者を収容する機会が多いので、感染源隔離のための陰圧個室を最低1室は設けるべきである(3.(1)a.病室を参照)。この場合の空調設備は他の病室とは別系統とする(6.(2)空調設備を参照)。幹細胞移植後患者などを収容する必要がある施設では、陽圧空調の可能な予防的隔離個室の設置を考慮する。これらの隔離用個室には前室付きが望ましい。ただし、PICUにおいても最も頻度の高い院内感染症は接触感染により伝播するものであり、接触感染である場合は、個室内はopen floorと圧較差を作る必要がないことから、個室空調は相対的正・負圧切替のみでなく等圧の設定も可能なことが望ましい。

10.情報管理
(1)患者情報ネットワークシステム
患者から得られる生体情報および医療情報を電子的記憶媒体に記録し、統合して利用できる患者情報ネットワークシステムを有することを推奨する。患者の医療情報や個人情報の保護およびデータの欠落、破壊防止のためにネットワークシステムのセキュリティ対策は必須である。また、個人認証を含めてシステムのセキュリティ対策やデータ保存を二重化する必要がある。
(2)病院情報ネットワークとの関係
本システムは病院情報ネットワーク(HIS)と独立していてもかまわないが、相互に情報のリンクがとれていることが必要である。そのためには、国際的に標準規格に準拠したシステムの構築が望ましい。具体的には、院内他部門からのデータがPICU内システムで参照が可能であり、PICU内での患者データが院内(PICU外)で参照が可能であるといった、全体的なシステム構成を図る必要がある。将来の機種変更が可能なように、データベースは製造会社を選ばない汎用性のある構造を持つことを必要とする。
(3)データベース
入室患者の診断、治療内容や合併症、転帰に関する患者データベースを作成する。データベース化された情報の追加や修正、削除に関する行為の履歴はすべて残す必要がある。

11.解説
本指針は、すでに発表した「集中治療部設置のための指針―2002年3月―」、「CCU設置のための指針―2004年3月―」を基本としているため、解説の詳細に関してはこれらの指針も参照されたい。すなわち本項の解説では,小児重症患者の特徴やPICU特有の問題点などに重きを置いて記載した。PICUは、厚生労働省基準が示す“最低基準”を満たした上で、小児の特性について十分配慮された施設であるべきである。
(1)管理・運営
a.患者の年齢
PICUの入室適応となる患者群には、新生児から成人までの幅広い年齢の患者群が含まれる。小児の区分あるいはPICU収容年齢について、15歳あるいは18歳という年齢区分が用いられることが多いが、上限年齢を区切る必要があるか、あるいは上限年齢をいくつにするかなどは、各施設の実情に合わせて決定されるべきである。また、新生児についても、NICUとPICUのいずれに収容すべきかなどは、各施設の実情に合わせて決定されるべきである。PICUへの収容患者群の年齢は、成人対象のICUあるいはNICUに収容する患者群と重複する場合がある。
b.管理・運営
PICUは、独立した病院の中央管理部門であり、ある特定の診療科に所属せず、診療各科がいつでも利用できる部門であることが重要である。PICUでの患者の管理(治療)形態には、集中治療医の関与程度によりコンサルテーションから共同管理式、集中治療医主体などさまざまなものが考えられるが、重要なことは、小児集中治療医を中心として、原診療科(受持科)、および関連の各小児系診療科の介入が適切に行われるチーム医療(Multidisciplinary team)が構築されるべきことである。当然のことながら、医療の中心には常に患者が存在する必要がある。さらに、PICUに入室している患者の原診療科の主治医にはいつでも連絡が取れる体制をとっておく必要があり、要請に応じてすみやかにベッドサイドにかけつけられることが望ましい。また、当該科の患者が入室していない場合でも、常に、小児麻酔科医、小児科医(小児循環器や呼吸器などの専門性があればさらに望ましい)、小児外科医、小児心臓血管外科医、小児耳鼻咽喉科医などとの連携が確保されていることが望ましい。このためには関連する各診療部門がいつでもベッドサイドに集まれる体制が病院として確保されている必要がある。参考までに、米国小児科学会と米国集中治療医学会が提示している高度医療が可能なPICUを運営するために院内に必要な診療科の一覧をTable1に示す。これは、診療要請があってから1時間以内にベッドサイドに到着することができる診療科の一覧である。

Table 1 要請後1 時間以内にベッドサイドに到着するべき診療科
I)当該施設に必須の診療科(小児集中治療科を除く)
●小児麻酔科
●外科系
小児外科
心臓血管・胸部外科(小児専門が望ましい)
小児脳神経外科
耳鼻咽喉科(小児専門が望ましい)
整形外科(小児専門が望ましい)
●小児内科系
小児循環器科
小児腎臓内科
新生児科
小児神経内科
●小児放射線科
●精神科

II)当該施設内にあることが望ましい診療科
●小児心臓血管・胸部外科
●小児耳鼻咽喉科
●小児整形外科
●小児形成外科
●小児泌尿器科
●小児血液科・腫瘍科
●小児呼吸器科
●小児内分泌科
●小児消化器科
●小児アレルギー科
●遺伝科

また、小児三次救急患者を積極的に対象とすることで、重症救急患者の予後改善に寄与しうる可能性があるため、PICUが小児救急医療システムの中に積極的に関与できることが望ましい。この場合、他医療機関からの紹介や地域救急医療体制へのアクセスを円滑にするため、PICU内への直通電話回線(ホットライン)が必要である。ただし、救急患者をどの程度受け入れるかは、地域医療との関係や施設の状況を考慮して、各施設ごとに判断されるべきである。
c.教育・研究
PICUはそれぞれの施設あるいは地域における小児集中治療医学の教育・研究の拠点となるべきである。小児の救命救急処置(PALS)、あるいはこれに準じたプログラムを含めて各施設に相応の教育プログラムを作成し、これを実践する必要がある。また、単施設あるいは多施設共同による臨床研究の場となり、さらに、小児集中治療に関連した基礎的および臨床的研究が行われ、これらの研究業績を国内外に向けて発信していくべきである。
d.医療スタッフ
「専従医には小児集中治療に指導的立場にあるものを1名以上含むこと」としたが、具体的には、日本集中治療医学会が認定した集中治療専門医をはじめ、日本小児科学会、日本小児外科学会、日本麻酔科学会、あるいはそれらと同等とみなされる国内学会における専門医制度資格を有するものや、海外での小児集中治療専門医資格を有するものなどがあげられる。
また、専従医の配置に際しては、労働基準法を考慮に入れた上で、個々の医師に過剰な労働負荷がかからない余裕を持った人員配置および勤務形態とすべきことが重要である。集中治療とは個々の医師の献身的努力によって支えられるものではなく、あくまで有効に機能するチーム医療を実践することにより成功するものであることを明記しておきたい。
看護師の配置については、小児重症患者のケアには成人におけるよりも多くの手がかかるとの指摘があり、「看護師が、常時、患者1.5名に1名以上の割合でPICU内に勤務していること。必要時には患者1名に1名以上の看護師を配置できる体制を整備しておくことが望ましい」と記載すべきであるとの意見もあった。
米国の指針では、すべての小児集中治療看護師がPALSプロバイダー資格を有するべきであるとされている。わが国でもPALSプログラムが普及し、専門トレーニングサイトが全国に配置されつつあるものの、いまだ本資格を有する看護師は多くないのが現状であり、看護師についてはこの件に関する記載をしなかった。
小児集中治療に特有な問題として、発達途上の小児の心身ケアの重要性があげられる。また、親権者との良好な関係を保つこともきわめて重要なことである。これらの問題を解決するために、「ソーシャルワーカー、児童福祉士、保育士あるいはその他の小児ケアを行う専門職が病院に勤務していることを推奨する」とした。これらのコメディカルスタッフは、虐待、あるいは終末期医療や看取りの問題に際しても、医療従事者と協力することで問題解決に重要な役割を果たすことが期待される。
(2)病床数
PICUの病床数は「6床以上とする」とした。既報の「集中治療部設置のための指針―2002年3月―」、およ び「CCU設置のための指針―2004年3月―」においては、「4床以上とする」と記載していた。本指針において病床数を増やして記載したことにはいくつかの理由がある。
理由の一つは、本指針の冒頭に記載したように、日本小児科学会がPICUの必要性を掲げ、かつ厚生労働省が小児救急専門病床確保事業として小児重症病床の整備の必要性を明確に打ち出してきたが、これらの中には、「新たに構築するPICUは、一定以上の大きさの医療圏を担当する施設として機能するに十分な規模を有するべきである」との認識があると考えられることである。さらに、現在、わが国で稼動している「看護単位が独立した小児集中治療室」の多くは6床以上の病床数を有していることから、医療の質を落とさないためにも、現在の平均的病床数は維持すべきであるとも考えた。
また、海外文献には、病床数や患者数が少ないPICUでは患者のmortality や morbidity が高いとの指摘があり、このことも今後のPICUは十分な病床数を有するべきであると考える根拠となった。たとえば、4床のPICUで夜間に2名の看護師が勤務している場合(患者数:看護師数= 2:1)、1名が何かに手をとられていれば残る看護師は1名となり、患者が急変するなどの緊急事態への対応は困難となってしまう。しかし、6床に対して3名の看護師が勤務していれば、

名が手をとられていても残る2名で緊急事態にも対応が可能となる。すなわち、多くの病床数で運用するためには必要な看護師数は増加するが、勤務する看護師の絶対数が増加すればするほどマンパワーの効率的利用が図りやすくなる。状態が急変しやすく蘇生処置などに多くの手がかかる小児重症患者の治療における安全性を確保するには、病床数は多いほうが有利であると考えられる。蛇足となるが、海外におけるPICUの病床数は10床以上であるものがほとんどである。
なお、病院の置かれた状況によって6床未満にしかできない施設があってもやむを得ないが、その場合にあっても、本指針に記載された(病床数以外の)条件は遵守されるべきである。
(3)医療機器
成人を対象としたICUと異なり、PICUにおいては新生児から成人までの幅広い年齢層に対応できる機能、サイズなどを取りそろえた医療機器を配備しておく必要がある。特に救急蘇生に必要な器具類や人工呼吸器などは、新生児用から成人用までが必要である。さらに光線療法器やインファントウォーマーなど、小児集中治療特有の機器配備も必要である。カプノグラフィや超音波診断装置の有用性は小児において特に高いため、必須項目に位置づけた。また、生体監視装置の圧モニタは動脈圧・中心静脈圧・肺動脈圧・脳圧などを想定し、最低でも4チャンネル必要とした。したがって、医療機器のほか器材や診療材料も多様なサイズを含めて、種類、数量ともに多くのものが必要となり、これらを収納する場所はむしろ成人対象のICUよりも広くあるべきである。
(4)臨床検査
血中乳酸値は「常時測定できること」とする項目には加えなかったが、その重要性は数多くの文献により指示されており、血液ガス分析器の測定項目には血液ガス・電解質(イオン化Mgも含む)・血糖のほか乳酸値を含むものが望ましい。
(5)施設・設備
PICUの設計に当たっては、第一に患者、患者家族、そして医療従事者にとって快適なものでなければならない。光、音、温度、湿度、においが快適であるような構造設計が不可欠である。さらに、清潔性、快適さを維持するためには、清掃が容易で耐久性のある構造であるべきである。埃やカビの存在は見た目にも汚いばかりでなく感染源となりうるので、これを徹底的に排除する構造設計が必要である。モニタ機器や人工呼吸器などを搭載した天井吊り下げ式のシーリングペンダントはこのような課題を解決するものといえるかもしれない。
医療機器の進歩につれ必要な電源数は増加しており、各ベッドには十分な数のコンセントと電源容量の供給が必要である。特に、PICUにおいては、患者保温のためのインファントウォーマーなどの加温装置が必要であり、輸液量を微量に調整するための輸液ポンプやシリンジポンプが多数必要となる。また、多くの電力を消費する超音波診断装置の利用頻度が高く、脳波計やECMOが使用される頻度も高い。これらのことから、「1床当たりの電源容量は50A以上あることを推奨する」とした。
2002年の集中治療部設置基準の見直しに関するアンケート調査においては、他部署との位置関係・動線の将来のあり方について要望の優先順位の高かったのは、1)手術部が同じ階にあり清潔廊下で連なること、2)病棟が同じ棟で専用エレベータで搬送できること、3)放射線部が同じ階で隣接・近接していること、4)救急部・救急外来が隣接・近接していることの順であった。特に小児の場合には、搬送に際して体温が低下することが患者侵襲を高める要因となるため、すみやかに他部署に移動可能な設計が是非必要と考える。また、ステップダウン病床の配置はPICUの円滑な運営に寄与する可能性が高く、PICUに隣接して配置されていることが望ましい。
(6)プライバシー保護
個人特定可能な名札、カルテ、処方箋などの取り扱いには厳重に対応する必要があり、カタカナ・ローマ字などによる名札表示、カルテ・検温表などのフローシートなどのPICU 内管理基準を設け、容易に保護者・見舞い客の視野にさらされないようにすべきである。また、医療スタッフ間の会話が家族や患児にも聞こえてしまう構造は避けるべきである。スタッフ間の会話に際しても、プライバシー保護の観点からの言動を心がけるのは当然のことである。事故外傷・虐待などでは警察・メディアとの対応も必要となる。警察への協力方法として、可能な限り書面での(捜査)協力依頼状を取り寄せること、来院時は身分証明書の提示を求め、コピーもしくはカルテに書き写しておくこと、さらには電話などでの協力依頼の際には、相手の所属と名前を聞き、一旦切って、こちらから所属機関の電話を調べてかけ直すことなどが必要である。施設内でのプライバシー保護の観点からPICU施設としての理想は、全室個室管理が望ましい。この場合、ナースコールシステムや全患者の生体情報が中央監視システムに直結とするとともに、室外にもアラーム作動表示が可能なシステムの設置が望ましい。
(7)情報管理
情報管理の対象となる情報は、患者情報と病院情報に大別できる。患者情報には、生体情報モニタリングシステムから発する情報や、PICUで発生した生体情報および検査情報、医師診断支援情報、看護記録情報などの臨床情報が含まれる。病院情報には患者個人属性など管理対象の情報が含まれる。情報の記録方法には、ペーパーによるもの、およびペーパーレスとして電子保存法などがある。電子保存に関しては、情報の管理方法や保存期間などを明確化しておく必要がある。セキュリティ対策には、個人情報保護とアクセス権限制限などの安全対策と、履歴処理対策、データ保存の二重化などの安全対策がある。また、統一された形のデータベースシステムの運用に当たり、国際標準規格(HL7、DICOMなど)の採用を図るべきである。データベースの共有化に当たっては院内の各部門間の連携が必須であり、地域の各医療機関との連携を図るのが望ましい。
心肺蘇生の実施状況や転帰、院内感染症サーベイランス、個々の手術術式ごとの死亡率やコストなどの指標が、即時に利用できる形で保管されていることが望ましい。患者ごとに適切な予後予測指標を用い、予測死亡率と実死亡率を対照することなどにより個々の施設での診療内容のベンチマークとすることができる。将来的には全国的にすべての小児集中治療施設で統一された形のデータベースシステムが運用されることが望ましい。
(8)その他
なお、本文には記載していないが、PICUにおいては、在室日数や入室の病態などがNICUや成人ICUとは異なっており、診療報酬点数についても新生児集中治療や成人の集中治療とは異なる加算体系が必要と思われる。今後の検討課題である。

文献
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策定協力者
日本集中治療医学会看護部会
池松 裕子(名古屋大学医学部保健学科):部会長
杉澤 栄(神奈川県立こども医療センター)


本指針は、日本集中治療医学会理事会(2007年2月28日、神戸市)、社員総会(評議員会)(2007年2月28 日、神戸市)、会員総会(2007年3月2日、神戸市)において承認されたものである。