ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
-822-FP-229 肺塞栓症による心肺停止において,血栓溶解療法を導入し,後遺症なく救命できた1 症例長崎みなとメディカルセンター市民病院 集中治療科小寺 厚志【はじめに】循環虚脱を伴う肺塞栓症の死亡率は約53%と報告される。今回,肺塞栓症による心肺停止において,血栓溶解療法を施行し,後遺症なく救命できた1症例を報告する。【症例】 54歳の男性(身長168cm,体重57kg)。急な胸痛と呼吸困難による救急搬送中に車内で心肺停止となり,蘇生処置を受けながら当院へ到着した。Pulseless Electrical Activityで,直ちに気管挿管,アドレナリン投与を開始した。2 回目のアドレナリン投与の4分後に心拍が再開し,心肺停止時間は約10分間であった。左右の瞳孔径は3.0mmで,ともに対光反射を認めた。血液生化学所見は,白血球数;11700/mm3,トロポニンT 値;0.048ng/ml,AST;213U/L,LDH;663 U/L,FDP;205.5μg/mlであった。心臓超音波検査では,三尖弁収縮期圧較差は50mmHg以上で,肺塞栓症を疑った。胸部造影CT 検査では,両側肺動脈主幹部にかかる広範囲の血栓と左大腿静脈の血栓を認めた。以後,開眼し意思疎通も可能となったが,8μg/kg/min のドパミン投与下で心拍数;114回/分,血圧;75/42mmHg であり,ショック状態が持続したため,モンテプラーゼ14,000 単位/kgを投与した。さらに,ヘパリン静脈内投与も併用したところ,循環動態も安定し酸素化も改善したため,第3病日には人工呼吸器より離脱した。以後,ヘパリンからエドキサバンの内服へ変更し,造影CT検査では,血栓は残存するが縮小傾向で後遺症もなく,第21病日に退院となった。【考察・結語】肺塞栓症に対するヘパリン+モンテプラーゼ療法は,ヘパリン単独よりも再発率や死亡率が低く,カテコラミンや気管挿管の導入も少なくなると考えられている。本症例でも,早期にカテコラミンや人工呼吸より離脱可能となった。一方で本症例では,後に,宗教上の輸血拒否の申し出があった。致死的な出血性合併症は認めなかったが,輸血に関する個人的事情の情報収集も重要と考えられた。FP-230 急性腎不全を伴う蘇生後脳症に対しCHDF を施行しながら軽度低体温療法を施行した一症例1)浜松医科大学医学部附属病院 集中治療部、2)浜松医科大学 麻酔・蘇生学講座加藤 弘美1)、川島 信吾1)、御室 総一郎2)、小幡 由佳子1)、土井 松幸1)、中島 芳樹2)【症例】45 歳男性【既往歴】糖尿病,軽度腎機能低下【現病歴】左頬部蜂窩織炎で近医に入院したが急性腎不全を併発し,高K 血症による心停止を来し蘇生後に当院へ搬送となった.【来院時現象】APACHE score 40,GCS7,ドパミン投与下であったがショック状態であった.胸部レントゲン写真で肺うっ血を認めた.【入院後経過】ショックに対してノルアドレナリンを追加し,高K血症に対してグルコース・インスリン療法を,代謝性アシドーシスに対して炭酸水素ナトリウム製剤の投与を行い,緊急CHDFを開始した.感染に対してメロペネムを,DICに対してリコンビナントトロンボモジュリンを投与した.35℃の冷却を24時間施行し,第2 病日から第3 病日にかけて37℃まで復温した.低体温療法施行中の感染徴候の悪化は認めなかった.復温後はGCS10 となり,人工呼吸器から離脱した.第4 病日にカテコラミン投与を終了し,CHDF をHD に移行した.第6病日にICU を退室した.【考察】本症例は心原性心停止であり,低体温療法の適応であると判断したが,免疫力低下から蜂窩織炎が悪化することを懸念し,軽度低体温療法を選択した.低体温療法導入時には輸液負荷が推奨されているが,腎不全による体液過剰状態のため,逆にCHDFによる除水を行った.低体温療法の開始後から血圧は上昇し,カテコラミンを漸減して対応した.低体温療法の施行と利尿の増加に伴い低K血症となったためKの補正を行った.シバリング管理のためのMg製剤投与は行わず,鎮痛・鎮静・筋弛緩のみで対応した.【結語】急性腎不全を伴う蘇生後脳症に対しCHDF を施行しながら軽度低体温療法を施行し良好な神経学的予後を得ることができた.急性腎不全に対する加療と軽度低体温中の管理とは相反するものも多いが,注意深くモニタリングを行うことで安全に施行可能であった.FP-231 頸椎症手術直後に発症した椎骨脳底動脈の梗塞の一例1)自治医科大学 麻酔科学・集中治療医学講座、2)済生会宇都宮病院 集中治療科、3)上都賀総合病院玉井 謙次1)、阿野 正樹2)、鯉沼 俊貴1)、小山 寛介1)、和田 政彦1)、島 惇1)、室野井 智博3)、竹内 護1)、布宮 伸1)【はじめに】頚椎後方固定術の小脳梗塞は椎骨動脈損傷がなければ、頻度は低い。椎骨動脈損傷はないが、固定術が原因と考えられる小脳梗塞を経験したので報告する。【症例】79歳 女性。合併症: 関節リウマチ 糖尿病、慢性腎臓病(G4A2) 発作性心房細動 手術歴:人工骨頭置換術 人工骨頭抜去術(頚椎手術の6ヶ月前に感染で抜去) 現病歴 70歳頃から左示指のしびれを自覚し、78歳で両手指の巧緻運動障害、下肢の運動障害が出現したため、手術の方針となった。頚椎CT C 2/3~C 6/7 での脊柱管の狭小化が生じている。C3/4~C4/5レベルでの高度に変形萎縮していた。【経過】CTナビゲーションシステムを用いた胸椎・頚椎後方固定術(C2~T1)を施行し、合併症無く終了した。手術室にて抜管。抜管直後はGCS4点(E1V1M2)と意識レベルは低下あり、術中麻薬の影響と考えていた。ICU入室直後はGCS8点(E3V1M4)で、術後12時間経過も発語を認めず、CT、MRAを撮影したところ、両側の後下小脳動脈、上小脳動脈の血流が途絶している所見を認めた。小脳梗塞と診断し、術翌日に開頭減圧術を施行した。気管切開を置いて入室21日目でICUを退室した。【考察】頚椎症手術の合併症として椎骨動脈損傷は頻度が低いが重大である。今回はリウマチによる骨変形と糖尿病による動脈硬化により容易に血流不全を来しやすい状態であった。術前の造影CTを見返すと右の椎骨脳底動脈は造影不良の所見が認められる。今回はナビゲーションシステムを用いて、損傷を出来るだけ最小限に使用とする試みがされており、椎骨動脈損傷はなかった。術直後の意識レベルの低下や構音障害が麻酔薬の影響と区別がつきにくい状況であったために発見が遅れた可能性がある。【結論】頚椎後方固定術後、椎骨動脈の損傷はなかったにもかかわらず、小脳梗塞を来したと考えられる症例を経験した。頻度は低いが可能性がある合併症として神経学的観察を行う必要がある。