ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-545-DP20-4 生活保護認定遅延により臓器移植が遅延した一例 ~行政と医療の温度差~金沢大学附属病院 集中治療部岡島 正樹、北野 鉄平、吉川 陽文、相良 明宏、関 晃裕、佐藤 康次、越田 嘉尚、野田 透、谷口 巧【症例】57歳、女性。【既往歴】健康保険未加入にて受診歴なし。【現病歴】某日早朝、呼吸苦のため会話不能な状態を娘が発見し、救急車を要請。救急隊接触直後PEAにてCPR開始された。虚脱から46分後、当院にて自己心拍再開となった。緊急CAG検査施行され、左前下行枝の亜閉塞に対し、大動脈バルーンパンピング下緊急PCI された。低酸素脳症に対し低体温療法施行したが、深昏睡から回復せず、脳波平坦、自発呼吸や脳幹反射も消失したままであった。第5 病日、家族の臓器提供の強い意思を確認した。しかし、金銭的側面から、生活保護認定がなされるまでは脳死判定を拒否されていた。健康保険未加入であったため、入院直後より当院ケースワーカーの介入のもと生活保護申請を速やかに行い、医療扶助を利用する手続きを開始し、第19病日に生活保護認定の決定がなされる予定であった。その間、重症ショック、重症感染、急性腎障害を合併し、ステロイド、昇圧剤、多種の抗生剤、血液浄化などにより、呼吸、循環、感染の管理に努めた。しかし予定日に認定されず、さらに2度の認定延期を経て、ようやく第27 病日に生活保護認定された。第28 病日より脳死判定、第29 病日に肺のみの摘出、臓器提供に至った。【考察】原則、生活保護決定は申請日から14 日以内になされるよう義務づけられている(生活保護法第24 条)が、今回は患者側や行政の問題により、それ以上の期間を要した。その間患者は臓器障害の進行を認め、医療側はその管理に苦慮した。患者、医療スタッフ、行政の温度差はしばしば問題になるが、この症例においてもその問題が浮き彫りとなった。今回、たとえ肺のみでも家族の希望である臓器提供ができたが、この温度差問題がさらに拡大し、脳死判定時期がさらに遅れた場合、臓器提供できなかった可能性がある。この症例を通して行政と医療の連携の問題を提起し議論をしたい。DP20-5 糖原病1 型(von Gierke Disease)患者の腎移植周術期管理の一例1)弘前大学 大学院 医学研究科 麻酔科学講座、2)弘前大学 医学部附属病院 麻酔科、3)弘前大学 医学部附属病院 集中治療部櫛方 哲也1)、野口 智子2)、斎藤 淳一2)、橋場 英二3)、丹羽 英智1)、工藤 倫之2)、廣田 和美1)糖原病1型はG6Paseの先天的欠如により体内に貯蔵されたグリコーゲンからグルコースを産生できない先天性代謝性疾患である。生命活動の維持に常にグルコースの直接摂取する必要がある。臓器別の病態としては、エネルギー源としてグルコースしか利用できない脳をはじめ、肝、腎の機能障害も見られ、肝、腎移植の適応となる症例も稀ではない。今回、我々は成人糖原病1型の生体腎移植に際し、全静脈麻酔を用いた周術期管理経験したので報告する。症例は31 才女性、生後直後の肝腫大を指摘され肝生検の結果、糖原病1型と診断された。乳製品除去とコーンスターチ継続的摂取を必要としている。過去一年で腎機能が急速に悪化し腎移植の適応となった。移植時の麻酔はプロポフォール、レミフェンタニル、ケタミンを用いた全静脈麻酔と超音波ガイド下の腹直筋、腹横筋膜ブロックで管理した。ケタミンは0.5mg/kg静注ののち、0.5mg/kg/hrで移植片再灌流時まで持続静注した。補液は1%グルコース含有酢酸加リンゲル液を主体とし、必要に応じてグルコースを追加した。移植腎からの利尿は良好であり、麻酔からの覚醒は速やかであった。麻酔終了後は集中治療室で周術期管理を行った。患者の同意の下、ケタミンの血中濃度の測定を、投与中止時、投与中止15,30,45,60、120、180 分後に行った。ケタミン血中濃度は投与中止120 分後には0.0ng/ml となり半減期は17.3分であった。ケタミンの薬物動態は腎機能障害で阻害されるという報告が有る1)が、今回のケタミン血中濃度の推移の結果は移植腎が良好に機能している証左の一つと考えられた。参考文献1. Pedraz JL, Lanao JM, Dominguez-Gil A. Kinetics ofketamine and its metabolites in rabbits with normal and impaired renal function. European journal of drug metabolism andpharmacokinetics. 1985; 10: 33-9.DP20-6 当院で経験した呼吸不全に対する長期VV-ECMO患者の肺移植登録についての検討1)日本医科大学付属病院 外科系集中治療科、2)日本医科大学 麻酔科学教室杉田 慎二1)、竹田 晋浩1)、梅井 菜央1)、市場 晋吾1)、坂本 篤裕2)我々は呼吸不全にたいする長期にわたるECMO 管理を経験した。患者は50歳男性。他院で特発性肺線維症に対してVV-ECMO が導入された。ECMO12日目に当院へ搬送となった。来院当時、重度の呼吸不全と循環不全により完全な鎮静をされて管理を行った。そのため、患者の治療方針についてのインフォームドコンセントは患者の家族に対して行われ、治療の制限についても患者家族の意向に沿って行われた。ECMO17日目に、VV-ECMO管理が安定して管理できるようになり、患者の意識を改善するにいたったが、まだ重篤化する可能性もあったため家族の意向を尊重し、患者への病状の説明は部分的に行った。生体肺移植については不可能と判断されたため、臨床状態からも今後の治療によってもECMOの離脱は不可能な状態に陥ると考えられた。この時点では死体肺移植はECMO 管理の患者であることや当時の患者状態、時間的問題、社会的問題からも検討はされなかった。終末期への移行も検討したが、ECMO管理は問題なく行われ、患者のADLは改善していった。65日目以降にはスピーチカニューラを使用することで意思疎通を完全に取れる状態となったため、患者家族に再度死体肺移植についての説明を行い、患者本人に移植についての意思確認を行い、死体肺移植の申請をするに至った。欧米ではbridge-to-transplantation としてのECMO の症例は多いが、本邦ではいまだ報告はない。これには、ECMOの歴史のほかに、肺移植についての社会的な背景の違いや、移植登録・申請についてのスピードの違いなどが理由として推測される。今後本邦でも長期にわたるVVECMO管理の患者は増えていく可能性があり、ECMO患者に対する肺移植の法的、医学的アプローチによるプロトコールが整備される必要があると考えられる。