ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-521-DP8-4 イヌ咬傷後Capnocytophaga canimorsus敗血症による剖検例沖縄県立中部病院 集中治療部中山 泉、毛利 英之Capnocytophaga canimorsus 感染症は、イヌ・ネコの口腔内に常在するC. canimorsus を原因菌とし、主に咬傷や掻傷後に生ずる。発症は極めて稀で、これまで世界でも200例程度の報告に留まる。一方、発症した例では急激に敗血症に陥り、致死率は30%とされる重篤な感染症である。ICU に入室する段階では原因不明の重症敗血症を呈すると考えられ、病歴聴取から動物接触・咬傷が疑われた場合には本疾患を念頭に適切な対応必要となるため報告する。基礎疾患のない51 歳男性が前日からの悪寒戦慄を主訴に救急搬送となった。来院前日、飼犬の散歩中に悪寒戦慄を自覚した。その後から頭痛、腰痛、両膝痛、上肢しびれが続いた。来院時は意識清明、血圧88/44mmHg、脈拍132回/分、呼吸数36回/分、SpO2 85%(マスク6L/ 分)、体温39 度であり、高度な代謝性アシドーシスを認めた。両肺浸潤影を認め、急性腎障害、肝障害、DICを合併していた。右手第1、2指間に1cmほどの治癒過程にある裂創を認めた。1年前に知人からイヌを譲り受け、これまで複数回咬傷の既往があった。イヌ咬傷に伴う敗血症性ショックが疑われ、ICU入室した。末梢血塗抹にて小型のグラム陰性桿菌の白血球貪食像を認めた。ICUでの管理後も急速に意識障害、呼吸循環不全、代謝性アシドーシスが進行し、治療介入に全く反応しないまま来院8時間後に死亡した。病理解剖では敗血症に伴うARDS, 多臓器うっ血を認めた。血液培養からはCapnocytophagacanimorsusが検出された。Capnocytophaga 属は通性嫌気性のグラム陰性小型桿菌であり、C. canimorsus とC. cynodegmi がイヌ・ネコ咬傷後感染症の原因となるが、重症・死亡例のほとんどはC.canimorsus による感染である。基礎疾患のない比較的若い年齢においても重症例の報告がある。比較的発育の遅い細菌であるため、自動血液培養で陽性シグナルを示さない例もあり、血液塗抹の直接グラム染色が早期診断に有用である。DP8-5 犬咬傷によるCapnocytophaga canimorsus感染症の1 例福山市民病院 救命センター柏谷 信博、宮庄 浩司、米花 伸彦、大熊 隆明、石橋 直樹、山下 貴弘Capnocytophaga canimorsusは犬や猫の口腔内常在菌であり動物咬傷後の敗血症の原因として知られているが本邦での報告例は少ない。特発性血小板減少症(以下ITP)に対する脾摘後の患者で犬咬症によるCapnocytophaga canimorsus感染症を経験したため報告する。症例は59歳男性。ITPの治療として脾臓摘出術を施行され近医でフォローを行われていた。自宅で倒れている所を家人が発見し救急要請,近医に搬送された。41.5 度の発熱,頻脈あり,敗血症性ショックの疑いとして当院へ搬送された。来院時,血圧85/58mmHg, 脈拍135 回/ 分とショックバイタルであった。CT検査では明らかな感染源は認められなかった。血液検査ではWBC,CRPの上昇を認めプロカルシトニン100ng/ml以上と高値を示していた。Plt0.3万と血小板減少,PT-INR1.9,FDP324μg/mlと凝固異常を認めDIC の状態であった。両足趾はDICが原因と思われる黒色変化を認めた。またBUN31.9,Cre3.62と急性腎不全を呈していた。右手第3指に内出血痕を認め家人に聴取したところ6 日前に犬に咬まれたことが判明した。ICUにて敗血症治療を行った。入院翌日, 前医の血液培養からグラム陰性桿菌が検出されたと報告があり画像検査上, 明らかな感染源が認められないこと動物咬傷の病歴からCapnocytophaga canimorsus感染症を疑った。集学的治療により全身状態, 検査所見は次第に改善した。第10病日PCR 検査にて菌種がCapnocytophaga canimorsus と同定された。基礎疾患にITP があったためか血小板数の改善に乏しく通常経過よりも血小板数の改善に時間を要した。趾先は乾性壊死へ至ったため切断が必要となったが術後経過も安定して経過し転院となった。Capnocytophaga canimorsus感染症は糖尿病,肝硬変, 脾摘後,自己免疫疾患等の基礎疾患を有する患者に起こりやすいとされている。今回我々はITPに対する脾摘後患者でのCapnocytophaga canimorsus感染症を経験したので若干の文献的考察を踏まえて報告する。DP8-6 「タイミャンマー国境における現地で学ぶ熱帯感染症研修」で経験したmelioidosisによる重症敗血症の3 症例大阪大学医学部付属病院 集中治療部滝本 浩平【背景】2014年7月大阪大学微生物研究所主催の「タイミャンマー国境における現地で学ぶ熱帯感染症研修」に参加した。このときタイの地方中核病院(ウドンタニ病院)ICUで経験したメリオイドーシスの3 症例を提示する。【症例1】67 歳男性、既往歴に糖尿病とCOPD。肺炎による重症敗血症にてウドンタニ病院に入院。セフタジジムとシプロフロキサシンを開始。入院4 日目、呼吸状態が悪化しICU 入室(血液培養;Burkholderia pseudomallei)。抗菌薬をメロペネムに変更も入室3 日目に死亡。【症例2】66 歳男性、既往歴に糖尿病。右膝痛と発熱を認め近医入院。病状が改善しないためウドンタニ病院に転院。細菌性関節炎と診断(関節液;B. pseudomallei)。抗菌薬はセフタジジムを投与、外科的ドレナージも施行。術後、呼吸状態が悪化しICUに入室。抗菌薬をメロペネムとST合剤に変更するも病状悪化。術後7 日目に死亡。【症例3】61歳男性、既往歴に糖尿病と高血圧。肺炎による重症敗血症にてウドンタニ病院に入院。ARDS を併発しておりICU 入室(喀痰;B. pseudomallei)。抗菌薬はセフタジジムとアジスロマイシンを投与。呼吸状態の改善なく入院翌日に死亡。【症例まとめ】メリオイドーシスは、主にタイやオーストラリア北部の地域における風土病であり、これまで日本では確認されていない。日本国内では東南アジアからの帰国者の感染症として数例が発表されているだけであり認知度は低い。本疾患は主に呼吸器症状を呈することが多く、重症化した場合には死亡率は高い。今回経験した3症例とも症状は激烈であり、有効な抗菌薬を投与していたにもかかわらず死亡という結果になった。本疾患が発生している地域は日本人が海外旅行で訪れる可能性が高く、また発症した場合には重症化することもある。その場合にはICU に入室する可能性があり、集中治療医として本疾患に対する認知度を高めておく必要があると考え、今回の学会発表に至った。