ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-428-O18-1 肝臓における低酸素応答を標的とした新たな乳酸アシドーシス治療法の開発~Cori回路制御機構の解明~1)慶應義塾大学 医学部 麻酔学教室、2)慶應義塾大学 医学部 医化学教室、3)東京歯科大学 歯学部 薬理学講座、4)島津製作所 分析計測事業部壽原 朋宏1)、菱木 貴子2)、笠原 正貴3)、早川 典代2)、小柳津 智子1)、中西 豪4)、久保 亜紀子2)、末松 誠2)、南嶋 洋司2)、森崎 浩1)【背景】低酸素応答は主に転写因子HIF(hypoxia-inducible factor)によって制御されるが、そのHIF もまた “ 低酸素センサー” プロリン水酸化酵素PHD2 によって負に制御されているため、PHD2 の活性が阻害された細胞では低酸素応答が活性化され、亢進した嫌気解糖の結果として大量の乳酸が細胞外に放出される。しかし、Phd2遺伝子を全身で破壊したマウスにおいては、予想に反して対照群よりも血中乳酸値が低いことが判明した。【目的】『乳酸を産生する骨格筋などと、その乳酸を取り込み糖新生などの原料として利用する肝臓との間のクロストーク(Cori回路)が低酸素応答によって活性化される』という仮説をたて、肝特異的Phd2ノックアウト(Phd2-LKO)マウスを用いて生体内における低酸素応答による代謝制御メカニズムの解明を試みた。【結果】Phd2-LKO マウスは対照群と比較して、(1)乳酸負荷後の血中乳酸クリアランス能力が高く、(2)肝臓における糖新生に関わる遺伝子群の発現が上昇していた(Control: n=8, Phd2-LKO: n=7)。また、安定同位体13C-標識乳酸から糖新生されたグルコースを、質量分析器を用いて定量した結果、(3)肝における乳酸からの糖新生能力が増強していた(n=15 each)。さらに、野生型マウスで作製したlipopolysaccharide(LPS)腹腔内投与によるエンドトキシンショックモデルにおいて、(4)経口HIF-PHD阻害薬(GSK360A)の投与によって乳酸アシドーシスが軽減され、個体の生存率が改善した(Vehicle: n=11, GSK360A: n=10)。【結論】個体における低酸素応答は、肝臓でのCori 回路活性化を介して乳酸クリアランスを高め、乳酸アシドーシスの死亡率を低下させる。本研究は、組織低灌流の産物であった乳酸を直接的代謝により生体のエネルギー源であるグルコースに変換する、という点で革新的であり、重症敗血症患者に対する血中乳酸値正常化を目標とする治療戦略の全く新しい科学的根拠となり得ると考える。口演 18 多臓器不全・敗血症③ 2月12日(金) 13:30~14:30 第11会場O18-2 DAMPsとしてのヒストンの体内動態1)鹿児島大学 医歯学総合研究科 救急・集中治療医学講座、2)鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 システム血栓制御学講座杉本 亮1)、伊藤 隆史2)、丸山 征郎2)、垣花 泰之1)【目的】DAMPs(Damege-Associated Molecular Pattern molecles)として注目されているヒストンは、マウスへの大量投与により敗血症様症状が誘発されることが知られている。本研究では、このヒストンが体内で血栓および炎症を誘発する作用動態を明らかにすることを目的とした。【方法】蛍光標識ヒストンおよび無標識ヒストンをマウスに尾静脈より投与し、各臓器(肺、肝臓、腎臓)および血液を継時的(5分後、1, 3, 6, 12, 24時間後)に採取した。各臓器は組織学的解析および分子生物学的解析に供試した。【結果】蛍光標識ヒストンは肺、肝臓、腎臓に主として蓄積し、後発的に投与された蛍光標識ヒストンは前蓄積部位に蓄積することが明らかとなった。また、血中のヒストン量が多い場合、体内ヒストンの排出が損なわれることが明らかになった。炎症性サイトカインの発現解析により、ヒストン大量投与(50mg/kg i.v.)よりも、同量のヒストンを断続的に投与された場合(16.7mg/kg i.v.を3回)の方が催炎作用が高いことが明らかとなった(P<0.05)。【結論】血中ヒストンの濃度が高く維持された場合、ヒストンの体外への排出が損なわれ、肺における蓄積が増大し、催炎作用が強くなることが推察された。O18-3 マウス敗血症モデルでのリコンビナントトロンボモジュリンによるNETosisの抑制効果1)藤田保健衛生大学 医学部 麻酔・侵襲制御医学講座、2)藤田保健衛生大学 医学部 臨床免疫制御医学講座加藤 由布1)、下村 泰代1)、須賀 美華1)、酒井 俊和1)、加藤 大貴1)、原 嘉孝1)、中村 智之1)、柴田 純平1)、森山 和広2)、西田 修1)Neutrophil Extracellular Traps(NETs)は病原体の補足と血栓形成に関与する好中球の自然免疫の一つである。NETs は活性化した血小板が好中球に結合して形成される。トロンビンは血小板の活性化因子であり、トロンビン産生が増加するDICのような凝固障害では、NETs形成も過剰になる可能性がある。リコンビナントトロンボモジュリン(rTM)はトロンビンと結合することにより、トロンビンの作用を不活化する。これまでに我々は、ヒト好中球を用いたin vitro の実験で、rTMによるLPS誘導性NET形成抑制効果を報告した。今回、LPS誘導性敗血症モデルマウスにおいてrTM の後投与による効果を検討した。【方法】マウスにLPS(E.Coli 0111)10 mg/kgを腹腔内投与(i.p)し、72時間生存率が50%となる敗血症モデルを確立した。このモデルに、LPS投与1時間後より、1日6 mg/kg のrTMまたは生食をi.pし、生存率と血中サイトカイン濃度を検討した。肝臓の組織学検査として、HE 染色と免疫蛍光染色で好中球の浸潤とNETosisを観察した。【結果・まとめ】マウス敗血症モデルの72 時間後の生存率は、rTM 投与群で100%(Log-Rank Test, χ 2= 5.812 :P < 0.03)に改善した。LPS 投与36 時間後の血中サイトカイン濃度の比較では、炎症性・ 抗炎症性サイトカイン(TNFα, IL-6, MCP-1, IL-10)の上昇がrTM投与により抑制された。肝臓の組織学検査では、rTM投与によりLPS誘導性の好中球の浸潤とNETosis の抑制を認めた。今回の結果から、rTMは単にDIC の治療薬としてだけでなく、 炎症制御およびNETosis抑制により臓器保護的に作用する可能性が示唆された。