ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
-380-ES2-3 早期経腸栄養開始時の条件、合併症対策札幌医科大学 医学部 集中治療医学巽 博臣 重症患者における早期経腸栄養は、一般的にICU入室後24~48 時間以内に開始、とされているが、循環動態が安定していれば早期に腸管を使うべきである。絶食期間が長期化するほど腸管麻痺は遷延し、さらに腸管粘膜萎縮、腸管免疫能・防御能の低下、腸内細菌叢の変化などからbacterial translocation(BT)が生じる。BT は経腸栄養の摂取により予防できると考えられ、静脈栄養管理中でも早期から少量でも栄養剤を投与することが望ましい。 経腸栄養の投与が難しい疾患・病態としては、消化管に問題のある場合のほか、大動脈手術後(腸管の虚血や虚血再灌流障害の可能性がある)や循環動態が高度に不安定なショックなどが挙げられる。これらの疾患・病態が否定されれば、臓器不全を伴う重症例でも経腸栄養の適応となる。 腸管の機能を腸蠕動音や排便・排ガスだけ評価することは難しい。高度侵襲後はこれらのサインが確認されるまでに数日を要することがあるが、確認できなくても経腸栄養は安全に開始できる。しかし、合併症の発症や病態の悪化を防ぐため、栄養剤の増量は慎重に行う。 侵襲に伴う腸管蠕動麻痺は経腸栄養開始後の嘔吐や誤嚥性肺炎の発生に関連し、経腸栄養の開始遅延や中止にもつながる。経腸栄養施行中の嘔吐・誤嚥リスクを低減する対策として、上半身の30-45°挙上、間欠投与から持続投与への変更、腸管蠕動改善薬の投与、経胃投与から経空腸投与への変更、などがある。一方で、上半身挙上のまま持続投与する際の仙骨部褥瘡発生に対する懸念、腸管蠕動改善薬の副作用や保険適応外使用、早期の経空腸投与による胃出血の増加など、嘔吐・誤嚥の対策を行う上での障壁も少なくない。 経腸栄養開始後は排便管理の成否が重要となる。下痢に伴い、栄養成分の吸収不良、循環血液量減少、電解質異常、肛門周囲の皮膚炎や創汚染などが問題となる。下痢発生時は炎症や感染に伴う下痢を否定し、経腸栄養に関連する下痢を鑑別する。対処法として、投与量・投与時間の調節、経空腸投与から経胃投与への変更、腸管蠕動に関与する薬剤の調整、下痢に有効な漢方薬や止痢薬の投与、栄養剤の変更などが挙げられる。食物繊維含有、低浸透圧、脂肪/ 乳蛋白非含有の栄養剤のほか、窒素源がペプチドで配合されている栄養剤(消化態栄養)が下痢に有効となる可能性がある。また、栄養剤の半固形化も下痢を抑制すると考えられ、近年、細径チューブで投与できる粘度のもの、胃酸で半固形化するもの、栄養剤に先行して投与し消化管内で半固形化させる増粘剤などが市販され、重症患者でも応用可能となっている。しかし、これらの栄養剤の成分や半固形化の有用性についてのエビデンスはまだ不十分であり、現実的には栄養剤の変更はtry & errorとなることも多い。 安全かつ適切な経腸栄養管理のためには、栄養ガイドラインを参考に施設の実情に合わせたプロトコールを作成し、個々の症例の病態に応じた調整が不可欠と考える。ES3東京女子医科大学麻酔科学教室小谷 透 ARDSは呼吸不全で入院し治療が開始された後でも発症する。このことは、治療早期の対応によってはARDSへの進展を防止できる可能性を示しており、いまだ3 割以上という高い死亡率を示すARDS の治療において重要なアプローチと考える。 過去には、人工呼吸開始前にARDSと診断された症例の6割がNPPV開始後ARDS基準から外れたとの報告がある1)。最近では、ARDSに対し人工呼吸を早期から開始する戦略が様々な場面で提唱されている。ある前向きコホート研究では、最初の人工呼吸器設定での1回換気量の増加は、2回目以降の変更での増加よりも死亡率が上がることが示されている2)。また、人工呼吸開始後最初のPEEP 上昇でP/Fが増加する症例では死亡率低下が確認されているが、最初のPEEP変更は初期設定後140分(69-249分)という早い時期に行われている3)。脳死体からの臓器提供において、心臓や腎臓が9割以上提供されるのに対し、肺は18%しかドナー臓器として利用されていない。しかし、臓器提供前の換気モードの変更により82%が移植適応となり、3年後の生着率も9 割を超えた4)。重症外傷例におけるARDS発生率と死亡率についてシステマチックレビューで得られた値(14.0%、14.1%)と自施設での肺保護換気の早期導入(1.3%、3.9%)とでは有意な差を認めた5)。 動物研究では、腸管動脈結紮と回盲部結紮穿孔による2 ヒット敗血症モデルに対し、実験開始当初から異なる2つの換気設定で管理したところ、臨床的にも病理組織学的にもARDS発生度に有意な差が認められた6)。 ICU機能の1 つは臓器機能のモニタリングである。ARDS at risk の患者を早期に抽出し監視下において、患者に適した肺保護戦略をカスタマイズしていくことが、ARDSの予後を改善させる可能性がある。このことは集中治療医学の役割を明確にするうえでも重要なポイントと考える。参考文献1)Ferguson ND. Intensive Care Med. 2004;30:11112)Needham Dm. Am J Respir Crit Care Med. 2015;191:1773)Goligher EC. Am J Respir Crit Care Med. 2014;190:704)Powner DJ. Prog Transplant. 2010;20:2695)Andrews PL. J Trauma Acute Care Surg. 2013;75:6356)Roy S. Shock. 2013;39:28イブニングセミナー 3 2月12日(金) 17:20~18:20 第11会場ARDSに対する肺保護換気戦略 ~早期肺保護の重要性~