ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

ページ
363/910

このページは 第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集 の電子ブックに掲載されている363ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-361-LS8-1 救急・集中治療領域におけるハイフローセラピー筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター/総合病院水戸協同病院 救急・集中治療科長谷川 隆一 ハイフローセラピー(nasal high flow oxygen therapy; 以下NHF)は、欧米では1980 年代に臨床導入され、特に新生児領域ではnasal CPAP の代用として普及してきた。一方成人に用いられるようになったのは、30L/ 分以上の高流量を送気できるブレンダーやタービンが開発されたここ数年のことになる。従ってその標準的な使用法や有用性に関する検討は現在様々な領域で行われている最中で、救急・集中治療領域に加え一般急性期から慢性期、在宅医療、緩和医療の領域からも報告が増えている。 NHFの特徴として、①経鼻デバイスを用いることによる患者の快適性の向上や受入れ率の改善、②吸気流速を上回る流量を得ることで吸入酸素濃度が安定し、高濃度酸素吸入も可能、③鼻腔や口腔といった解剖学的死腔の洗い出しによる換気効率の改善、④ 3-5cmH2O程度のPEEP 効果が得られ、肺の虚脱予防に有用、などがいわれている。注目されるのは、死腔の洗い出しとPEEP効果であり、前者は血中のCO2レベルの低下に寄与して換気量を減らすことにつながり、実際にNHFによる呼吸数の減少が観察されている1)。また後者はCPAPの代わりとして心不全症例や無気肺症例にいいかもしれない。 救急外来において低酸素性急性呼吸不全症例を対象とした小規模RCTでは、NHF 群で呼吸困難スケールの改善と心拍数の有意な低下を認め、快適度スコアも有意に高かった2)。一方ICUにおけるNHF導入前後の4週間ずつの観察研究では、導入後には鼻カヌラやマスクなどの複数デバイス使用が有意に減少し、抜管後のNHFが増えた3)。さらにICU退室患者数も増加したため、医療コストは導入前、患者1 名あたりAUD $32.56から$17.62まで低下した。他にも急性呼吸不全に対するNHF、酸素療法、NPPVを比較したRCT では、NHFが最も生存率が良好と報告され4)、NHFはかなり魅力的なデバイスのように見受けられる。一方でNHFに固執するとNPPVや挿管・人工呼吸療法のタイミングが遅れて、患者の予後を悪化させてしまう可能性も考えられる。NHFは換気を補助するものではないので、酸素化障害に換気障害を合併する呼吸不全に対しては慎重に導入する必要があるかもしれない。またNHF で悪化した場合に、直ちに挿管・人工呼吸とするか、NPPV を試みるかについてもデータは得られておらず、現状は症例ごとに検討することになろう。われわれの施設のデータも共有したいと思う。1. Vargas F, et al. Physiologic effects of high-flow nasal cannula oxygen in critical care subjects. Respir Care 2015; 60(10):1369-76.(PMID: 25944940)2. Rittayamai M, et al. Use of high-flow nasal cannula for acute dyspnea and hypoxemia in the emergency department. RespirCare 2015; 60(10): 1377-82.(PMID: 26060321)3. Fealy N, et al. Nasal high-flow oxygen therapy in ICU: A before-and-after study. Aust Crit Care 2015; pii; S1036-7314(15)00069-7. doi: 10.1016/j.aucc.2015.05.003.[Epub ahead of print](PMID: 26092213)4. Frat JP, et al. FLORALI Study Group. High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure. N EnglJ Med 2015; 372(23): 2185-96.(PMID: 25981908)ランチョンセミナー 8 2月12日(金) 12:20~13:20 第9会場集中治療領域におけるハイフローセラピー戦略LS8-2 小児集中治療領域におけるハイフローセラピー戦略長野県立こども病院 小児集中治療科黒坂 了正 非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation: NPPV)は、成人分野では急性および慢性呼吸不全に対して在宅から集中治療領域まで幅広く活用され、インターフェースの選択肢も多い。また、新生児分野では経鼻的持続陽圧呼吸(nasalcontinuous positive airway pressure: NCPAP)が必須の治療法として長年使用されてきた。しかし、小児分野ではインターフェースの選択が困難な上に患児の協力が得難く、NPPVの積極的な導入は遅れていた。 近年、鼻腔高流量酸素療法(High-flow nasal cannula oxygen therapy: HFNC oxygen therapy)が注目されている。HFNCoxygen therapyはNPPV の一治療法で、加温加湿下に最大40-60 L/min の混合酸素を専用の鼻カニューラから供給する。気管支粘膜の加湿保護、解剖学的死腔の呼気洗い出し、吸気抵抗の低下、呼気陽圧と肺コンプライアンスの改善により呼吸努力を軽減する。また、鼻カニューラの装着に熟練度は必要なく、鼻中隔を圧迫せず、NCPAP の鼻プロングに比べて結露が格段に少ないため、装着性や快適性の向上と皮膚損傷の予防に寄与している。当院ではHFNC oxygen therapyの装着性と快適性に着目してNPPV導入対象患児へ積極導入し、NPPVの第一選択になっている。 昨年、新生児から成人まで単一機器で使用可能な(プレシジョンフロー)が発売され、小児分野でも医療環境に応じた機器やインターフェースの選択が可能になった。より一層の積極活用が期待される。 本セミナーでは小児分野におけるHFNC oxygen therapy の導入方法や治療効果について、自経験例を中心に最新の知見や課題と今後の展望をふまえて紹介する。