ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-314-PC10-1 筋弛緩薬を用いた人工呼吸管理は重症ARDS に必要である。Proトロント大学 こども病院吉田 健史近年、重度ARDSに対する早期かつ短期間(48時間)の筋弛緩が、90 日後生存率を改善させるという臨床結果が示された(NEJM2010)。また、重度ARDS に対する筋弛緩の効果は、酸素化能を改善し(筋弛緩終了後も)その酸素化能を維持、血中及び気管支肺胞洗浄中のサイトカインの減少も伴っていた(CCM2004、CCM2006)。さらに、米国からの報告でも、severe sepsisで人工呼吸管理の患者に対して早期の筋弛緩の使用は、病院内の死亡率を低下させることが明らかとなった(CCM2014)。こうしたARDS に対する筋弛緩の有用性を示す臨床のデータに加えて、我々は経肺圧や肺局所換気パターン(Pendelluft)の観点から重度ARDS に対する自発呼吸の有害性を報告してきた(CCM2012、CCM2013、AJRCCM2013、CCM in press)。特にARDS が重度になると、呼吸器系コンプライアンスの低下と強い呼吸困難感を反映し、プラトー圧は高くなり自発呼吸努力も強くなることが示されている(CCM2013)。そのため重度ARDSでは、高い経肺圧が発生しPendelluft効果も大きくなりやすく、背側肺を中心に大きなtidal recruitment が起こり肺傷害の悪化につながる(CCM in press)。このような理由から、重度ARDSの患者は筋弛緩の最も良い適応である。実際の臨床で重度ARDSに対して筋弛緩を安全に導入するためには、筋弛緩導入前の準備が非常に重要となる。また患者によって筋弛緩を導入することができない場合、自発呼吸をどのようにコントロールするかも大きな課題である。このセッションでは、重度ARDSに対する筋弛緩の理論と実践を述べ、筋弛緩が重度ARDSに有用であるというエビデンスを示したい。Pro-Con 10 2月13日(土) 8:00~8:50 第4会場筋弛緩薬を用いた人工呼吸管理は重症ARDSに必要であるPC10-2 筋弛緩薬を用いた人工呼吸管理は重症ARDSに必要である, Con自治医科大学附属さいたま医療センター 麻酔科・集中治療部讃井 將満 筋弛緩薬は、長期にわたりステロイドと並ぶICU獲得性筋力低下(ICU-acquired weakness: ICU-AW)のリスク因子と考えられてきた。言い方を変えれば、多くの集中治療医にとって、筋弛緩薬は、ARDS や喘息重積発作などの急性呼吸不全において、手を尽くした後の最終手段(last resort)と呼ぶべき存在であった。少なくとも僕にとってはそのような存在で、これには、筋弛緩薬が被疑薬に挙がった重症ICU-AWの一例を経験したことが大きく関与している。単なる経験バイアスから逃れられない臨床医の悲しい性かもしれないが、原疾患が治り意識も良く尿も出ているのに、数カ月後も呼吸器から離脱できず、どんなに理学療法を続けても筋力は重力に抗してかろうじて動く程度にしか回復しない姿を思い出すと、今でも心が傷む。 ところが近年ステロイドこそが強力なICU-AWのリスク因子であり、筋弛緩薬はリスク因子でないという見解が提示されるようになった。実際、重症ARDS 患者に筋弛緩薬を使用すると予後が改善することを示したPapazian らのRCT でも、筋弛緩薬はICU-AWを増加させなかった。それを含む3件のRCTを対象とした2013年のシステマティックレビューでも同様の結果であった。果たして筋弛緩薬は、ICU-AWのリスクという汚名を完全に払拭したのであろうか。 周知の通り、非脱分極性筋弛緩薬はアミノステロイド系とベンジルイソキノリン系に大別され、ロクロニウムやベクロニウムは前者、シスアトラクリウムは後者に属する。1990年代にアミノステロイド系筋弛緩薬とステロイドを併用する患者で高率にICUAWを発症するという報告が相次いだ。ステロイドとアミノステロイド系薬に共通するステロイド骨格に病態解明のヒントが隠されているのではないかと疑うのは自然の流れだが、今となっては彼らのリサーチテーマとしての意義は薄れてしまった。 なぜなら、欧米のICUでは1990 年代後半に良好な薬理学的プロファイルも味方して、シスアトラクリウムへの転換が進んでしまったからである。実際2000 年以降、筋弛緩薬とICU-AWとの関連に言及する報告は激減し、ロクロニウムによるICU-AW の動物実験がわずかに認められるのみである(ちなみに結果は“クロ”であった)。上記3件のRCTで使用された筋弛緩薬も全てシスアトラクリウムであった。良い代替薬があるのに、あえて患者をリスクに曝す道理が立つはずがない。実に単純な、そしてシスアトラクリウムを使用できない我が国にとっては悲しい話である。 重症ARDS に対する筋弛緩薬はレスキュー療法の一つに位置付けられている。確かにベッドサイドで吸気努力が強く経肺圧がいかにも高そうな患者を見ると、筋弛緩薬を使おうという誘惑にかられることも多い。しかし、腹臥位やECMOなどの代替療法があり、シスアトラクリウムが使用できない現状を考えると、僕の中で筋弛緩薬の地位がlast resortから上がることはない。もちろんこの現状を黙って放置しておくほど鈍い感受性は持ち合わせていないつもりではあるが……。