ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
-308-PC4-1 成人ICU患者の鎮静にベンゾジアゼピンはもはや不必要である?東北大学大学院医学系研究科 麻酔科学・周術期医学分野吾妻 俊弘1950 年代、Roche 社の研究者であったSternbach は、化合物R0-6-690 が強力な催眠鎮静作用を持つことを偶然発見した。chlordiazepoxideと呼ばれるこの物質は、改良型として開発・販売されたdiazepamとともにRoche社を国際的巨大製薬企業として押し上げる莫大な利益をもたらすこととなった。その後の50 年間に、六員環であるベンゼン環と七員環ジアゼピン環が縮合したベンゾジアゼピン環を基本骨格として持つ誘導体が次々と合成・市販され臨床で活用されてきた。また、ベンゾジアゼピン系鎮静薬のGABAA受容体αサブユニットへの結合による薬理作用は、薬理学・生理学の基礎として多様な研究が進められてきた。diazepamの注射薬は1969年より日本でも発売が開始され、1988年に販売開始された水溶性で短時間作動型のベンゾジアゼピン注射薬であるmidazolamとともに、人工呼吸中の鎮静薬として広く使用されてきた。1968年に国立大学附属病院として初めて開設された東北大学病院集中治療部においても、呼吸管理中の鎮静として長らくmidazolam を用い、鎮痛作用を持つketamineと併用する「ケタドル」やfentanylと併用する「フェンタドル」について1990 年代に報告してきている。1995年に導入と覚醒が速やかで調節性に優れるpropofol が発売され、さらに2004年には呼吸抑制作用がほとんど無く浅い鎮静レベルを維持しやすいα2アドレナリン受容体作動薬dexmedetomidine が発売され、それぞれの長所と短所を考慮して鎮静を行うようになってきていた。東北大学病院集中治療部においても、2004年以後はpropofolが50%、dexmedetomidineが30%、midazolamが20%程度の割合で「三剤鼎立」の様相であった。しかし、最近はベンゾジアゼピンの長期投与や高用量投与による覚醒遅延や過鎮静、離脱困難やせん妄・認知機能障害に関する報告が続くようになり、徐々に第一選択の鎮静薬としては用いられなくなってきていた。さらに2013 年に発表されたSCCM/ACCMのPAD guidelinesでは“We suggest that sedation strategies using nonbenzodiazepine sedatives(either propofol ordexmedetomidine)may be preferred over sedation with benzodiazepines(either midazolam or lorazepam)to improve clinicaloutcomes in mechanically ventilated adult ICU patients(+2B).”、2015 年の日本集中治療医学会J-PAD ガイドラインでは「人工呼吸管理中の成人患者に鎮静薬を投与する場合には、ベンゾジアゼピン系鎮静薬よりも非ベンゾジアゼピン系鎮静薬を優先的に使用することを提案する(+2C)」と記載されるに至り、もはや「ベンゾジアゼピンは不必要」ともとれる状況になってきている。ガイドラインでの推奨の根拠となる報告などを検討し、本当に「不必要」なのかどうかを会場の皆さんと考えていきたい。Pro-Con 4 2月12日(金) 9:00~9:50 第6会場成人ICU患者の鎮静にベンゾジアゼピンはもはや不要か?PC4-2 ベンゾジアゼピンは使わざるを得ない場合と、使いたい場合がある和歌山県立医科大学 医学部 救急集中治療医学講座加藤 正哉、宮本 恭兵 ICUでの鎮静においてベンゾジアゼピンの使用機会は減少しており、プロポフォールやデクスメデトミジンの使用が増加しているのは事実である。自施設においてもベンゾジアゼピンを第一選択として使用する機会は少ないが、選択的に使用する場合と、使わざるを得ない場合の2 通りの意味で「もはや不要」とは言えないのが現状である。 鎮静薬剤選択に関する国内外の鎮静鎮痛ガイドラインを参照するかぎり、「鎮静薬の第一選択はベンゾジアゼピンより非ベンゾジアゼピンの方が良いかもしれない」と控えめな提案がなされているに留まる。一方で、不隠、アルコール離脱、深鎮静を要する症例などにおけるベンゾジアゼピンの有用性についても明記されている。自施設ICU において過去3年間に人工呼吸管理を要した重症敗血症76例を振り返ってみると、10例(13%)において他薬剤無効、深鎮静が必要などの理由のためベンゾジアゼピンの持続投与がおこなわれていた。安価で血行動態に影響しにくく、深い鎮静深度が得られやすい薬剤として、ベンゾジアゼピンはまだまだ使用の余地があると思われる。ミダゾラムに代表されるベンゾジアゼピン持続投与の不利益として、「譫妄が多い」、「人工呼吸管理期間やICU滞在期間が延長する」などが挙げられているが、これらの多くについて確定的な知見が得られているわけではないことに注意が必要である。譫妄発生率やICU滞在期間については、RikerらのRCT(SEDCOM)においてベンゾジアゼピン投与により、有意な譫妄の増加や、ICU滞在期間延長が認められている。この試験が有名なため、ベンゾジアゼピンはいかにも悪い薬剤であるかのような印象で捉えられる傾向にあるが、他の試験をみると譫妄発生率やICU滞在期間に差がないとするRCTの方がむしろ多く、観察研究でも意見は一致しない。 人工呼吸管理期間については前述のSEDCOM 以外にも多くのRCT においてベンゾジアゼピン群で1-2 日の延長が認められていることは確かなので、持続投与する際には注意が必要である。ベンゾジアゼピン投与に伴う不利益が報告されている過去の試験では、最近の主流である浅鎮静や、一日一回の鎮静薬中断など、鎮静薬の蓄積を避ける対策が必ずしもおこなわれているわけではないので、鎮静薬の選択よりも蓄積を避けるような鎮静方法の選択の方が重要である可能性もある。死亡率という最も重要なアウトカムについて差を認めた大規模試験は存在しないことをあわせて考えると、ベンゾジアゼピンは言われているほど悪い薬ではなく、実臨床においてはまだまだ必要な薬剤である。