ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
-276-SY26-1 フレイルの課題と対策国立長寿医療研究センター荒井 秀典少子高齢化により、現在高齢者人口は26%を超えており、約10年後の2025 年には75歳以上の後期高齢者が2000万人を超えると推定されている。このような人口構成の変化を示すわが国においては、外来患者、入院患者とともに高齢化し、いかに加齢に伴う様々な問題に対処するかが、患者の予後の改善だけでなく、QOLの改善、再入院の予防につながる。加齢に伴い、様々な疾病への罹患が増えるが、同時に臓器機能が徐々に低下し、生理的な予備能が減少する。65歳以上75歳未満の前期高齢者と75歳以上の後期高齢者を比較すると、後期高齢者においては加齢による様々な生理的予備能の衰えにより、外的なストレスに対する脆弱性が高まり、感染症、手術、事故を契機として要介護状態に陥ることが増えてくる。このように、加齢とともに環境因子に対する脆弱性が高まった状態が「フレイル」であるが、もともと虚弱と訳されていた概念である。フレイルは、高齢者の生命・機能予後の推定や包括的医療を行う上でも重要な概念であり、介入可能な病態であることから高齢者の健康増進を考える上では、すべての国民が理解すべき概念である。本シンポジウムでは、その概念、病態生理、適切な介入方法などについて述べたい。シンポジウム 26 2月14日(日) 9:00~9:50 第12会場Frailの問題点と取り組みSY26-2 集中治療領域における早期フレイル対策JA愛知厚生連海南病院 リハビリテーション科飯田 有輝フレイルは高齢者の生活機能を障害する主要な因子とされ、地域住民高齢者における有病率は、65歳以上で約10%、80歳以上で30%以上と、加齢とともに増加することが示されている。またフレイルは身体的・精神的機能が減弱している上に予備能が低く、比較的軽症の疾病や外傷などをきっかけに容易に生活自立レベルの低下や要介護状態に陥る。そのため、高齢化率の高い本邦において、フレイル対策は急性期においても大きな主関心事となっている。フレイルの診断基準はFried らの提唱したCardiovascularHealth Study(CHS)の基準がよく用いられ、体重減少、易疲労性、活動レベル低下、筋力低下、歩行速度低下の5 つの構成からなる。すなわちフレイルは、食欲低下(低栄養)、免疫能低下、サルコペニア、インスリン抵抗性、神経疾患を原因とし、さらにこれらの要素は複合的に負の連鎖を引き起こし、病態を進行させることが示されている(フレイルサイクル)。 ICU で管理される重症患者では、全身性の筋力低下を主体とした機能障害であるICU 関連筋力低下(ICU-acquired weakness;ICU-AW)や、ICU管理由来のせん妄が高率に発生する。ICU退室後も続くICU-AWならびにせん妄は強力な予後不良因子であり、関連する医原性リスクをいかに軽減するかはICU の重要な取り組みとなる。発生要因として、全身性の炎症や、血糖上昇、筋蛋白異化、筋不活動、過鎮静、薬剤性などが挙げられている。これらの因子は、フレイルあるいはフレイルサイクルの発端になり得るリスクファクターとして考えることができる。つまり、ICU管理によって引き起こされるフレイルがあり、言い換えれば、医原性リスクを最小限に止めることがICU由来のフレイル対策として重要な取り組みとなる。また、手術前やICU 入室時に併存するフレイルは予後不良因子であるとの報告が多数みられる。当院の心臓外科術患者で3-methylhistidine を用いた検討では、術前患者の30%にフレイルを認め、フレイルが術後筋蛋白異化亢進の独立した予測因子として示された。このように、フレイルに侵襲が加わることで異化が亢進しさらに病態が悪化すると考えられ、既にフレイルに陥っている患者のスクリーニングと、フレイル患者に対する病態悪化予防策の構築が必要となる。 集中治療領域におけるフレイル対策として確立したものはまだないが、原疾患の治療のみではなく、フレイルの主要な原因である筋力低下や低栄養、ならびに高齢者に特徴的な症状や病態に視点を当てた包括的な取り組みが並行して必要となる。