ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-264-SY21-1 集中治療室入室患者の妄想的記憶や記憶の欠落の実態とその要因日本医科大学武蔵小杉病院山口 貴子、菊池 美穂、加藤 由、石川 秀一、月岡 悦子、福永 ヒトミ【目的】近年、集中治療室(ICU)退室後の集中治療後症候群(PICS)が注目されている。PICS の一つである抑うつ症状や心的外傷ストレス障害(PTSD)はICU滞在中の妄想的記憶・記憶の欠如が関連しているとされているが、その要因やせん妄との関連性などいまだ明らかにされていない点も多い。そこで今回、記憶の歪みの実態と要因を明らかにし、ICU看護の示唆を得る目的で本研究を行った。【用語の定義】記憶の歪みとは、ICU入室中に、不思議な出来事や納得できない出来事があった、あるいはICU入室中の出来事を全くもしくは部分的に想起できない状態を指す。【方法】平成26年8月~平成27年1 月一施設の大学病院ICUに予定手術で入室した患者で、ICU 入室前にせん妄や精神疾患を有する症例、Mini Mental State Examination(MMSE)で重度認知機能障害と評価された患者を除外した21 症例を対象とした。ICU退室後1 週間に、インタビューガイドを用いて半構成的面接を行い逐語録とした。言葉の持つ意味の類似性に基づいてカテゴリー化し質的帰納的に分析した。また、面接で得られたデータをもとに患者を歪みあり・なしの2 群に分け、基礎情報、ICU 入室前のMMSE 及びHospital Anxiety and Depression scale(HADS)による不安・抑うつ評価から要因を分析した。【結果・考察】記憶の歪みありと判定された患者は13 /21名(62%)であり、そのうち、せん妄患者は4名であった。患者はせん妄評価ツールなど客観的な評価スケールでは測れない苦痛を抱えていることを理解する必要がある。記憶の歪みの発症要因では、鎮静時間で有意であった。深鎮静や鎮静薬の長期使用がPTSDや妄想的記憶に関与している報告もあり、本研究においても鎮静薬の使用は可能な限り最小限にとどめることが記憶の歪み予防として有用な可能性が示唆された。記憶の歪みの実態として、患者の語りから39のコード・12 のサブカテゴリー〈非現実的な体験〉〈記憶の欠落〉〈記憶が欠落し特徴的な記憶が残る〉〈不快な感覚〉の4のカテゴリーが抽出され、対処方法として、〈他者に打ち明ける〉〈自己処理〉〈回避〉の3 つのカテゴリーが抽出された。そこから、ICU における必要な看護として「早期からのモビライゼーションや五感に働きかけるケア」「身体的・精神的苦痛の除去と侵襲の少ないケアの追及」「繰り返しの現状説明と、患者が回復を実感できるような関わり」「精神的安寧を与える環境調整」「看護師が積極的に患者の訴えに耳を傾ける」「患者にとっての重要他者が患者の記憶の再構築をサポートできるよう支える」等の看護ケアが導き出された。【結論】記憶の歪みはせん妄でない患者でもみとめられた。鎮静時間が記憶の歪みに影響している可能性がある。記憶の歪みの実態から必要な看護ケアの示唆を得た。シンポジウム 21 2月13日(土) 15:40~17:10 第11会場Post Intensive Care SyndromeSY21-2 心臓血管外科患者のストレスと術後認知機能低下およびICU滞在日数の関係1)高知県立大学 看護学部、2)近森会近森病院心臓血管外科、3)近森会近森病院看護部井上 正隆1)、入江 博之2)、池淵 正彦2)、手嶋 英樹2)、谷脇 和歌子3)、池田 光徳1)【目的】術後せん妄は生命予後悪化につながる可能性がある。唾液中バイオマーカーは不安の指標となることが先行研究で明らかにされているが、臨床で用いた研究は少ない。本研究は心理的ストレスへの高い反応性が認められているクロモグラニンA( CgA)を心臓血管外科手術患者に対し測定し、術後認知力低下(postoperative cognitive dysfunction:POCD)やせん妄発症との関連性を検討した。【方法】2013年11月から2014 年6月に高知市のA病院においてCABG13例、弁膜症手術14例、大動脈人工血管置換術2例、その他複合手術6例を受けた予定手術患者計35例を対象とした。除外項目は60歳未満、鎮痛剤服用などであった。EuroSCORE-IIの平均は4.82± 12.09であった。Fast-track法に準じ、早期気管挿管抜去及びリハビリテーションなどをルーチンに行った。ICDSC(Intensive Care Delirium Screening Checklist)で術後の認知力やせん妄を診断した。本スケールは4 から8 点をせん妄としているが、これに加え1 から3点を認知力低下あり(せん妄前駆状態)とし、術直後、術後2時間、術後1~5日目の計7ポイントで測定した。唾液採取は、術前日、術直前、術直後を上記に加えた計9ポイントで実施し、CgA濃度を測定した。研究は、研究者が所属する大学、研究協力施設の倫理委員会の承認を取得した。【結果】18名(51.4%)に術後認知力低下を、4名(11.4%)にせん妄を認めた。術後認知力低下の発症危険因子を検討し、NYHA、EF、EuroSCORE-2、手術時間、術中水分出納などに有意な差は認めなかったが、せん妄に関しては手術時間に有意差を認めた。術前日CgA値を用い、術後認知力低下及びせん妄の発症予測を検討した結果、AUC:0.76( p=0.03、95%CI:0.55-0.99)、感度は0.857、特異性は0.750であった。【結論】術前日CgA値は術後認知力低下及びせん妄の発症予測に有用であると思われ、看護師の臨床判断に活用できると期待できる。