ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-258-SY18-9 VAPの予防医療法人鉄蕉会亀田総合病院 集中治療科林 淑朗VAP予防においてもまず、手指衛生遵守率向上や医療従事者への教育といった院内感染対策に普遍的な戦略が重要である。しかしVAP予防により特異的な介入に限定すれば、気管挿管の機会や人工呼吸器装着期間を減少させる戦略と、口腔咽頭への病原性細菌定着やこれらを含む唾液の下気道への垂れ込みを減少させる2 つの戦略がある。気管挿管及び人工呼吸がVAPの主たる危険因子であるので、気管挿管の機会や人工呼吸装着期間を必要最小限にすることは重要である。浅い鎮静や1 日1回の鎮静薬の中断、筋弛緩薬使用の回避、早期からの呼吸理学療法、人工呼吸離脱可能性の日々の評価等はいずれも人工呼吸期間を短縮するのに寄与する可能性があり、VAP予防のみならず人工呼吸を受ける集中治療患者に対する全体の医療の質を改善しうるプラクティスとして受け入れられている。気管挿管の機会を減らすという点では、非侵襲的陽圧換気は、COPD や免疫不全のようなVAPのリスクの高い集団における急性呼吸不全では気管挿管による人工呼吸に比してVAP 予防に有用であるかもしれない。近年世界的に急速に普及しつつあるネーザルハイフロー療法も急性呼吸不全における気管挿管の機会を減らすことが期待されている。口腔咽頭への病原性細菌定着やこれらを含む唾液の下気道への垂れ込みを減少させる戦略としては、半座位の維持、気管チューブの適切なカフ圧の維持が一般的に推奨され、また気管チューブの改良、口腔咽頭消毒、選択的消化管除菌などが研究されてきた。半座位の維持は最も容易な介入でありVAPバンドルの一項目でもある。適切なカフ圧の維持もVAP予防以外の目的でも重要である。気管チューブ自体に対する改良では声門下のカフ上に貯留する分泌物を吸引できる機能や銀コーティングが施された気管チューブにVAP予防効果が示されている。しかし、これら特殊な気管チューブ導入の前に、標準的な集中治療の質が担保されることが優先されなければならないし、また本邦における費用対効果検証もなされるべきであろう。クロールヘキシジンによる口腔咽頭消毒は国際的に広く行われているVAP 予防戦略の1つであるが、日本では粘膜へのクロールヘキシジンの使用が禁忌であるため実行できない。また、ポピドンヨードに同様の効果があるかも不明である。選択的消化管除菌はRCT、メタ解析でVAP 予防効果が示されたにもかかわらず、一部の国々でしか受け入れられていない。VAP 予防効果のみならず薬剤耐性菌増加に対する懸念が根強く、さらなるRCT が必要と考えられている。SY18-10 人工呼吸器関連肺炎の予防を目的とした経口挿管患者に対するディスポーザブル口腔ケアキットの有用性1)兵庫医科大学 歯科口腔外科学講座、2)兵庫医科大学病院 歯科口腔外科、3)兵庫医科大学病院 救命救急センター、4)兵庫医科大学 救急・災害医学講座門井 謙典1,4)、岸本 裕充1)、木崎 久美子2)、藁田 希世和3)、岡崎 理絵3)、坂田 寛之4)、宮脇 淳志4)、小谷 穣治4)【背景】集中治療領域において、人工呼吸器関連肺炎(VAP)は頻度の高い院内感染症の一つであり、死亡率や入院期間、医療費を増大する。VAP の予防には口腔ケアが重要とされるが、その標準的な方法は未だ確立されていない。経口気管挿管患者では、気管チューブに沿って口腔細菌が咽頭部を経由して誤嚥しないように、口腔・咽頭の汚染物を確実に吸引・回収することを重視すべきである。ところが、従来の口腔ケア方法では歯面や舌背部に付着していた細菌を咽頭部に落下させている可能性を否定できない。一方、米国CDC「医療関連肺炎予防のガイドライン2003」で推奨されている「包括的口腔衛生プログラム」を容易に実践できるようキット化された「Q・Care」は、ディスポーザブルの吸引歯ブラシと吸引スワブ、抗菌性を有する湿潤ジェルがパッケージされており、口腔ケア中に生じた汚染物の回収に有用と考えられる。そこで本研究では、VAPの予防を目的とし口腔ケア方法の介入研究(前向きランダム化比較試験)を行った。【方法】当院に救急搬送され、経口気管挿管となった患者を対象とした。1日の口腔ケア回数は3回で、介入群の口腔ケアには「Q・Care」を使用し、対照群は従来通りの口腔ケア(市販歯ブラシとスワブで清掃した後に、精製水10ml で洗浄し吸引する方法)とした。CPIS(Clinical Pulmonary infection Score)スコア6 点以上をVAP と診断した。【結果】介入群では有効症例数20のうちVAP発症は3、対照群では有効症例数16のうちVAP発症は9であり、介入群でVAP発症が有意に減少した(p<0.01)。【考察】「Q・Care」を用いた口腔ケアは従来の方法よりも看護師の負担を軽減し、VAP 予防にも有効であったが、さらにVAPの発症を少なくするには、ケア回数を増やすなどの追加介入が必要と思われる。