ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-251-SY16-3 気道内圧の制限はどうするべきか PEEPとVt のはざまで東京都立小児総合医療センター 救命・集中治療部齊藤 修、居石 崇志、渡邉 伊知郎、本村 誠、中山 祐子、新津 健裕、清水 直樹2012年発足した小児急性肺傷害コンセンサスカンファレンス(PALICC)は、2015年小児急性呼吸窮迫症候群(PARDS)を再定義した上で、経肺圧測定下でない場合の吸気圧推奨上限を28cmH2O、胸壁エラスタンスが大きい場合は、32cmH2Oまで許容するとした。確かに肺保護戦略としての吸気圧は重要な位置を占めるとされるが、一方で吸気圧とは、「適切な」呼気終末陽圧(PEEP)と「適切な」一回換気量(Vt)の狭間で自ずと決定されてしまう。食道内圧の臨床応用により、atelectraumaを防ぐ呼気終末経肺圧の陽圧維持を目指したPEEP設定と、barotraumaを防ぐ25cmH2O を越えない吸気終末経肺圧によるVtの設定は、小児への臨床応用は容易ではないが、大変合理的な方法と思われる。また、LOVS、ExPress trialを二次分析し重症ARDS患者のPEEPに対する酸素化応答が転帰と関連するとしたGoligherらの報告や、driving pressure(Δ P)が7cmH2O上昇する毎に(仮に肺保護戦略としての低い吸気圧、Vtを受けていたとしても)転帰を悪化せしめるとしたAmatoらの2015年の報告は、いずれも残されたbaby lung(健常な肺容量)を推し量るツールとして、小児おいても重要であろう。しかしながら、2010 年Khemani らに指摘されたとおり、我々は気管チューブからの空気の漏れを許容し(むしろ以前は必須と考え)、Vtの測定部位も様々という発展途上にいる。そのため成人からのエビデンスを流用しながらも、確固たる小児の転帰に結びつけることは出来なかった。こうした状況の中、PARDSにおいて、PALICCが推奨する画一的な吸気圧設定は、我々のベッドサイドに果たして有益であろうか。答えはそう単純ではない。2014 年相次いで報告されたOSCAR(Ferguson ら、平均気道内圧 MAP 30cmH2O)、OSCILLATE 研究(Young ら、MAP 従来型人工呼吸器のMAP+5cmH2O)が、背景の異なる患者群に対し均一なプロトコルを応用し、HIFI研究の再来とされたように、不均一な原因、あるいは年齢・体重の患者を対象に、様々なプロトコルを有する小児集中治療医が、画一的に吸気圧を当てはめることは能わないであろう。結果、我々が個々のベッドサイドで出来ることは、こどもの胸郭の上がり下がりや、呼吸窮迫症状その一つ一つを丁寧に見定め自施設にあったプロトコルを用いることである。もちろん、経肺圧、ΔP、PEEP酸素化応答といったツールあるいは、グラフィックモニター、胸部レントゲンをしぶとく見極めることも重要である。PALICCの推奨に対し、このように考える。SY16-4 PEEP の設定国立成育医療研究センター病院集中治療科中川 聡 Positive end-expiratory pressure(PEEP)は、何を基準にどう設定すればよいか?これが、本講演の課題であり、小児の人工呼吸管理でも時々遭遇する問題である。人工呼吸の基本的な概念は、最大吸気圧で肺を広げ、PEEPで虚脱を防ぐ、というものである。同等のPEEP であっても、吸気圧や一回換気量を変えると、呼気終末の肺容量は変化する。 肺の静的圧容量曲線には、吸気脚と呼気脚が存在する。Acute respiratory distress syndromeの初期の病態では、この吸気脚と呼気脚が乖離して存在することがある。一般には、吸気脚の2 つの変曲点(lower inflection point; LIP とupper inflection point;UIP)が注目され、その2点の間の傾きが急峻である(コンプライアンスがよさそうに見える)ため、LIP付近かそれよりも少し高めの圧にPEEP を設定するのが良いという意見がある。しかし、これは誤りである。高い気道内圧で肺容量がいったん確保されると、tidal loop は、吸気脚よりも呼気脚側にシフトする。すなわち、PEEP の設定においては、吸気脚の2 つの変曲点に縛られる必要は全くなく、多くの症例でLIP よりも低いPEEPで管理が可能である。 小児のARDS の患者群は、施設によって扱う患者層が異なるものの、敗血症など肺外に原因を有する患者が多い。肺外に原因がある場合は、全身の浮腫や腹部膨満など、肺エラスタンス以外に胸壁エラスタンスが上昇している病態を念頭に入れて、気道内圧の設定をする必要がある。 また、肺病変には、気道内圧を高くして肺容量が確保される肺と、気道内圧を高くしても肺容量の確保が得にくい肺とがある。前者では高いPEEPやリクルートメント手技の応用が可能であるが、後者では高いPEEP やリクルートメント手技が無効であるばかりか、血行動態などへの悪影響を起こしうる。その見極めが重要である。これらの見極めには胸部のCTスキャンなどで確認をすることが多いが、胸部の単純X線写真でもそれなりに鑑別が可能である。また、何らかのリクルートメント手技を行った際の酸素化の反応でも判断されることがある。さらに病態を理解する上で使用される方法としては、食道内圧測定や、肺野を視覚的に動態でとらえる方法としてのelectrical impedance tomographyがあるが、まだ一般的ではない。 上記の条件を考慮して、患者ごとに適切なPEEP の設定をするのが良いと考える。