ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-250-SY16-1 小児のARDSの特徴;成人と何が異なるのか?国立成育医療研究センター 集中治療科松本 正太朗1967 年に、Ashbaugh らによって初めて報告された12 例のacute respiratory distress を呈した症例シリーズのうち、5 例が19 歳以下の小児であった。その後、成人を中心に症例報告、基礎研究、臨床研究が進んだが、多くの研究で小児は除外され、小児の研究は進まなかった。しかし、AECC 定義も、Berlin定義でも、年齢による定義の差異は存在しない。また、多種多様な疾患から発生する、肺胞-毛細血管の透過性バリアの消失と豊富な蛋白を含む液体成分の肺胞への浸潤という、基本的な病態生理も成人で生じるARDS となんら変わることはない。小児特有の定義も提唱されているが、妥当性の検証が行われておらず、現時点で使用する利点はない。ただし、右左心内シャントを伴う先天性心疾患、横隔膜ヘルニア、胸郭/肺低形成など先天奇形の患児に対する適用には注意を要する。肺の生理学における小児と成人の最も大きな差異は、肺と免疫系が未発達であることである。出生後2年間で肺胞数は10倍となり、青年期まで徐々に発達・成熟していく。肺毛細血管もリモデリングを経て複雑で過剰なものからシンプルで効率的な毛細血管網へ成熟する。免疫系もダイナミックな変化を遂げる。この肺と免疫系の発達・成熟が、ARDS の発生、進展、および修復過程にどのような影響を与えているか、成人と比較してどのような臨床像の差異として現れるか、少しずつ明らかになりつつある。成人と小児におけるARDSの疫学は若干異なっている。発生率と致死率はそれぞれ、成人vs 小児=18-81/10万人年 vs 2-12.8/10万人年、27-45% vs 18-27% と報告されている。小児で最多の原因は肺炎であり、成人と比較してウイルス性肺炎の頻度が高い。Pulmonary ARDS が多く、荷重側にリクルート可能な病変を伴うことが多いため、小児における充分なevidence は存在しないものの、小さな体格と合わせて腹臥位療法が有効である可能性がある。一方、Extrapulmonay ARDS においては、体幹浮腫や腹部膨満にともない著明に胸壁コンプライアンスが低下し、高い気道内圧を要する症例が多い。動物実験ではあるものの、小児の肺は成人の肺と比較して高い一回換気量による肺障害が軽度との報告もある。歴史的にカフなしチューブが多用されてきた小児では、気管チューブ周囲のリークを許容する管理から、正確なコンプライアンスや死腔の算出が困難であり、もっぱら理学所見と経時変化が患者管理に使用されてきた。近年、カフ付きチューブの使用の知見が集積されつつあり、その使用により呼吸生理学的指標の評価が容易となってきた。また、成人と同様に、食道内圧や横隔膜電位を用いた管理も行われており、有効性が報告されつつある。自験例を交えて、新生児を除く小児に生じるARDSの特徴を、主に病態生理、病因、疫学の観点から概説し、管理における特徴・注意点を明らかとすることを試みたい。シンポジウム 16 2月13日(土) 15:40~17:40 第7会場小児のARDSの特徴SY16-2 一回換気量は6 mL/kgに制限すべきか?大阪府立母子保健総合医療センター 集中治療科竹内 宗之、文 一恵、奥田 菜緒、橘 一也成人では、一回換気量の制限をすることでARDSの予後が改善できる。また、driving pressure が小さいほど生存率が高いことも報告されている。これらは、どちらも、一回の呼吸による揺れ幅が小さいほど肺へのダメージが小さいことを物語っている。ただし、6 mL/kgという数値そのものにマジックがあると考えるのは、成人でもそうだが正しくないかもしれない。6 mL/kgに制限したとしても、そのときの肺のstressを示す、最高経肺圧が高ければ肺傷害を起こす可能性がある。また、同じ換気量でも強い自発呼吸があるときには、局所的には大きな経肺圧が発生していて、そのため、重症ARDS では自発呼吸を抑制すると肺傷害が軽減できることが知られている。これらは、小児でも、当てはまる可能性がある。しかし、小児では成人と比較して、小さい一回換気量を実行するのが困難なことがある。小児では人工呼吸器回路による機械的死腔が大きいため、換気量を制限することはCO2の著しい貯留に繋がる可能性がある。小児では肺高血圧による右心不全に陥りやすく、高PaCO2を許容できないこともある。換気量モニターの正確性に対する疑問もある。回路補正機能をもつ最新の人工呼吸器では、チューブリークがなければ、センサー位置に関わらず、正確な一回換気量を表示することができる。しかし、小児ではリークが存在することが多い。我々はリーク存在下でのICU人工呼吸器がどれくらい一回換気量を正確に測定できるか、モデル肺を使用して調査した。リーク補正機能がない機種では、呼気一回換気量は実際に肺に到達する換気量よりも小さく表示された。リーク補正機能がある機種でも、リーク存在下での一回換気量のモニターは不正確であることがあり、とくに、体格の小さく気道抵抗が高い場合に誤差が大きくなった。このように安定しない一回換気量を頼りに6 mL/kgという数字にこだわるのは危険かもしれない。一方、驚くべきことに、小児における観察研究(Erickson 2007, Khemani 2009)で、一回換気量が大きい方が予後がよいという報告もある。また、呼吸器系コンプライアンスの大きいARDS では、一回換気量を制限することが予後を悪化させる可能性も示されている。これらは介入試験ではなく、また、上述したように一回換気量の測定そのものに問題があり、自発呼吸の影響も考慮されていない。また、食道内圧も測定していないため、肺コンプライアンスや経肺圧も不明である。よって、これらの論文をもって、小児では一回換気量は制限しなくてよいという結論には至らない。しかし、ARDSを病態や重症度で分類し、それぞれに対して適正な人工呼吸を行う必要があるというメッセージは重要であると考える。一回換気量は6 mL/kg を一つの目標にしつつ、重症度や最高経肺圧を考慮しながらプラトー圧とPEEP を調整することが最良の方法であると考える。