ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-238-SY11-5 慢性肝疾患における肝と肺の臓器相関千葉大学 大学院 医学研究院 消化器腎臓内科学丸山 紀史、横須賀 收肝疾患は、消化管や脾、心、肺など他の臓器の異常をしばしば合併する。特に呼吸器系の異常を有する場合は、患者のQOLを著しく低下させるばかりでなく生命の危険にも関わることから、速やかな対応を要求されることも少なくない。すなわち、肝疾患に関わる臨床家や研究者は、肝と肺の臓器相関の臨床像や病態を熟知することが重要である。本発表では、肝疾患における肝と肺の臓器相関について、最近の知見と教室での成績を述べる。1. 肝肺症候群とPortopulmonary hypertension両者は、肝と肺の臓器相関を考える上で代表的な疾患である。まず肝肺症候群は、「肝疾患に関連して生じた肺血管拡張に基づく動脈血酸素化の異常」と定義される。肺の毛細血管拡張を来し、肺胞気・動脈血酸素分圧較差の上昇を呈する。主たる症状は呼吸苦で、発症にはendothelial NO synthaseの増加、ET-1産生増加、ET-B 受容体の増加や血管拡張因子としての一酸化炭素などが指摘されている。肝硬変例における肝肺症候群の頻度は4-80%と報告によって大きく異なっており、診断根拠や肝硬変の原因差によると思われる。その存在は肝硬変例における独立した予後規定因子として重要であり、治療として速やかな移植の適用が推奨されている。一方、Portopulmonary hypertensionは「門脈圧亢進症に関連した肺動脈性肺高血圧症」と定義され、肝肺症候群と異なり肺血管抵抗の上昇が病態の背景にある。肺血管には、一次性肺動脈性肺高血圧症と同様に、中膜の肥厚、内膜の増殖、線維化などの変化が観察される。肝疾患における本症の頻度は1-10%程度と報告され、右心カテーテル検査によって診断される。臨床像は病期に依存し、症状に乏しい初期を経て、非特異的な呼吸器症状を呈するようになる。治療は主として対症療法であり、肝移植やTIPSも効果に乏しい。最近、ET 受容体拮抗薬やIP 受容体作動薬、そしてPDE5阻害薬による本病態の改善が報告され、今後の展開に期待されている。2. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)における門脈血行異常CTEPHは厚労省難治性疾患克服研究事業の対象疾患で、主病因として肺血栓が想定されているが詳細は明らかでない。千葉大学(2000-2015年)で右心カテーテル検査と腹部血行動態の精査を受けたCTEPH は57例であり、門脈血行異常は8 例(14%)と高率に認められた。平均肺動脈圧は非門脈血行異常例に比べ門脈血行異常例において有意に高値で、肺血管抵抗も後者で高い傾向を示した。このようにCTEPHの一部の例では、凝固異常など明らかな原因を伴わずに門脈血行異常を呈し、心肺機能の低下と関連していた。【結語】肝と肺の臓器相関は、日常臨床の視点では特殊な病態と認識される傾向にあるが、その頻度は決して稀ではない。また全身性疾患と位置づけられる肝臓病の特殊性が、その診療を複雑化する要因ともなっている。肝疾患の臨床や研究に従事する者にとって、これらの知識と理解は重要である。SY11-6 肝腎兵庫医科大学内科学腎・透析科長澤 康行 いわゆる肝腎症候群は、高度の肝硬変を背景に門脈圧亢進・全身の炎症反応の亢進などから有効循環血漿量が減少し腎機能が低下する状態である。 その一方で肝硬変を背景に腹水貯留がおこる病態として、1)Overflow theory 2)Under filling theory 3)Vasodilation theoryと3つの機序が想定されているが、これも有効循環血漿量が減少していく過程を基本的に説明している。つまり、肝腎症候群と腹水貯留は、共通する病態が存在する。 さらに救急の場や集中治療の場での急性の循環動態の不安定化やSepsisなどにより有効循環血漿量が低下し急性腎障害と鬱血肝のような肝不全を同時に発症するような場合も共通する病態が存在することになる。このような肝腎連関を背景におこる急性腎障害は腹水に代表される全身の水分の貯留傾向が著明なことが多く、この治療には利尿薬が欠かせない。さらに水分貯留傾向を伴う低ナトリウム血症を呈する疾患には肝硬変・心不全・ネフローゼ症候群が含まれ、低ナトリウム血症を伴うことも多い。全身の水分を除去しながら、低ナトリウム血症を改善していくためには、従来のナトリウム利尿薬と水利尿薬の違いを良く理解し、適切に使用することが必須である。 本シンポジウムでは、肝腎症候群を始めとする肝不全と急性腎障害が同時に存在する病態の機序を解説する。さらにその治療の根幹となる水利尿薬・ナトリウム利尿薬の水分除去効果の違いを解説することで、よりよい治療のアプローチへと繋がることを目指していく。