ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-236-SY11-1 「脳」こそが循環動的恒常性維持システムの中枢である ~脳は心臓と会話している~九州大学循環器病未来医療研究センター岸 拓弥心臓・血管・腎臓などにより維持される循環動態は各臓器が個別に機能しているのではなく、生命維持のための代謝維持に不可欠な酸素を運搬する血液量を、活動量に見合った循環血液量として決定される。すなわち、循環動態は生体恒常性を維持するために動的な制御を受けているシステムである。循環動的恒常性維持システムは神経・液性因子で接続される「脳」と末梢臓器で構成され、「脳」は各臓器からの入力情報をもとに判断をし、各臓器に交感神経・副交感神経を用いて指令を出し、動的にフィードバック制御を行っている。つまり、「脳」こそが循環動的恒常性維持システムの中枢であり、「脳」と「心臓」の間でどのような連関(単なる関係ではなく)があるかは循環生理を考える上で必須である。我々はこれまで、循環制御システムにおける「脳」内異常と「脳」入出力異常の二つに分けて基礎研究を行ってきた。「脳」内異常として、1)アンジオテンシンII 受容体により産生される酸化ストレス・2)グリア細胞におけるアンジオテンシンII受容体の異常増加による神経グリア連環異常・3)toll-like receptor 4 による炎症性サイトカイン産生、が過剰な交感神経活性化を惹起し循環制御不全を惹起することを報告した。また、「脳」への神経性入力として圧受容器・化学受容器・心臓の低圧受容器・腎臓からの求心性神経や肺・筋肉・消化管などからの迷走神経求心路があるが、5)圧受容器反射不全は正常の心臓でも血圧と左房圧の容量不耐性を惹起する・6)化学受容器反射活性化は圧受容器反射中枢弓(頸動脈圧→脳→交感神経)のシフトを介し交感神経を活性化する・7)腎臓からの求心性神経刺激は圧受容器反射中枢弓をシフトさせ血圧上昇と交感神経活性化を惹起する・8)迷走神経求心路刺激は圧受容器反射中枢弓シフトを改善する、ことを明らかにした。また、右心房の低圧受容器は、圧受容器反射中枢弓を二峰性に変化(5mmHg以下では交感神経を活性化するが5mmHgを越えると抑制)させ、右心房から「脳」への求心性神経は迷走神経であることも確認した。最近では、血中アンジオテンシII 濃度を心筋梗塞後と同レベルにするだけで「脳」内機序を介して交感神経活性化・左室拡張障害をきたすことや、圧負荷心肥大そのものによる「脳」内変化を介した圧受容器反射不全の可能性も示している。これらの結果は、心臓から「脳」への入力や、「脳」から交感神経による心臓への出力は重要であり、「脳」の機能不全が循環動的恒常性を破綻させ種々の循環器疾患の本質的な原因であって、「脳」こそが循環器疾患における未達の治療標的であることを強く示唆するものである。「脳」は心臓と会話している。シンポジウム 11 2月13日(土) 14:40~16:40 第2会場臓器連関を理解しようSY11-2 急性および慢性の心肝連関大阪大学大学院 医学系研究科 循環器内科学大谷 朋仁、坂田 泰史 多くの心臓病は全身の臓器との関連を認めるが、中でも心臓と肝臓との連関については主に心不全の病態で認められる。心臓から肝臓への急性の影響については、急性心不全による急速な循環不全による影響が挙げられ、重度なものはショック肝と呼ばれる。急性心不全患者を対象とした臨床試験では肝機能異常は約4割に認められ、うっ血や右房圧上昇はアルカリフォスファターゼの異常と相関し、血圧の低下など臓器灌流の低下はトランスアミナーゼの異常と相関し、肝機能の異常値を有する心不全患者は1ヶ月後の予後が不良であることが報告されている。また、慢性期への移行に関しても、心不全患者の退院時に、右房圧上昇に伴う肝うっ血により上昇する肝硬度をエラストログラフィーによって評価した当院での検討では、肝硬度の上昇は死亡および心不全再入院率の上昇との関係性を認めた。また、慢性心不全として長期に経過した場合においても、循環不全により持続性の肝機能障害をきたし、血中ビリルビン値上昇やアルブミン値低下がしばしば認められる。当院において心不全により死亡した剖検例で検討したところ、ビリルビン値高値例では、肝重量の増加とうっ血肝を認めていたが必ずしも高度の肝線維化といった組織的変化を伴ってはいなかった。重症な心不全例でも補助循環のように劇的に循環が改善する治療によって肝機能異常が改善する例もあり、重症な心不全での肝障害においても可逆的な部分が大きい可能性も考えられている。 一方、肝臓が心臓に及ぼす影響としては、急速な肝障害が末梢血管抵抗の低下をきたし、代償性の心拍出量の増加による高心拍出性の循環不全の病態を引き起こす場合がある。また慢性肝疾患ではQT 延長や左室の拡張機能や収縮機能の障害などを認めることがあり、報告によると左室拡張機能障害は約半数の症例において認めるとされている。関係性の機序はまだ不明な点が多いが、肝機能障害に伴う循環血漿量の増加、C型肝炎ウイルスによる肝障害の場合は肝炎ウイルス自体による心筋への直接的影響、β受容体を介した障害や炎症性サイトカインの関与などが考えられている。さらに、肝移植後の症例においては、術前に認めた心機能障害が移植後に改善する場合があることも報告されており、可逆的な心臓への影響も考えられている。このように心臓と肝臓との繋がりは急性的の影響と慢性的な影響とが存在するが、これらの知見について示したい。