ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
-232-SY9-1 EGDT は有効か?(敗血症のEarly Goal-Directed Therapy)鹿児島大学 医歯学総合研究科 救急・集中治療医学分野垣花 泰之敗血症性ショックの初期の病態は、血管拡張に伴う相対的循環血液量減少であり、左室拡張末期容量(LVEDV)が低下するため、初期蘇生の概念としては、急速大量輸液によりLVEDV を上昇させ、低下した心拍出量や酸素供給量を改善し、組織の酸素需給バランスを適切に維持することである。しかし、1990 年代に重症敗血症/敗血症性ショックに対して、目標達成指向型管理法(goaldirected therapy:GDT)の有効性を検討するいくつかのRCTが行われたが、予後改善効果を示すことは出来なかった。一方、RiversらはGDTに時間の因子(早期:early)を導入することで、敗血症性ショック患者の予後改善効果を示すことに成功した。Rivers らが提唱した早期目標達成指向型管理法(early goal directed therapy:EGDT)のポイントは、(1)できるだけ早く、(2)十分な輸液(大量輸液)を行い、(3)定められた4つの目標値(中心静脈血圧(CVP)8 ‐ 12mmHg,平均動脈血圧 65 mmHg以上,尿量 0.5 ml/kg/hr 以上,中心静脈血酸素飽和度(ScvO2)70% 以上など)を6 時間内に達成することである。重症敗血症/ 敗血症性ショックのGDTに関するメタ解析においても、時間制限のないGDT 群は死亡率を低下させないが、6 時間以内という時間制限を設けたGDT 群では死亡率を有意に低下させることが示されている。これから分かることは、敗血症性ショックにおける初期蘇生には時間の因子が極めて重要であり、スピード感という時間の概念をプロトコルに明確に示すことが、初期蘇生を成功させる最も重要なポイントであるといえる。しかし、近年報告された3 つの大規模RCT(ProCESS、ARISE、ProMISe)において、EGDTの有用性を示すことはできなかった。ところで、我々が「EGDT」の有用性を検証する際に、「狭義の(厳格な)EGDT」と「広義のEGDT(早期のGDT)」を混同していることがあるため注意が必要である。つまり、「狭義の(厳格な)EGDT」とはもちろんRivers らが提唱した初期蘇生プロトコル(CVP:8 ‐ 12mmHg,平均動脈血圧 65 mmHg 以上,尿量 0.5 ml/kg/hr 以上,ScvO2:70% 以上を6時間内に達成)であり、仮に輸液反応性の指標にCVP ではなくSVV を使用すれば、「狭義の(厳格な)EGDT」で管理したことにはならないし、ScvO2の代わりに乳酸値を指標とした場合も、「狭義の(厳格な)EGDT」で管理したことにはならないのである。これらの事を踏まえた上で、もう一度「敗血症性ショックに対してEGDT はもはや必要ないのか?」を検証すべきである。シンポジウム 9 2月13日(土) 15:40~16:30 第1会場EGDTは有効か(敗血症のEearly Goal-Directed Therapy)SY9-2 敗血症の急性期における適正な蘇生輸液とは?―巧遅は拙速に如かず大阪市立総合医療センター 救命救急センター林下 浩士、重光 胤明、孫 麗香、山下 智也、森本 健、石川 順一、福家 顕宏、師岡 誉也、有元 秀樹、宮市 功典【目的】重症敗血症に対して充分な輸液負荷は不可欠な治療とされている。また一方、過剰な輸液は予後を悪化させることが報告され、適正輸液の重要性が一層強調されている。しかし、症例が救急処置室に搬送され集中治療室(ICU)に入室する間(感染巣に対する処置、手術を含む)では脈拍、血圧、尿量および乳酸値の測定など基本的なモニタリングを参考に輸液が施行され、中心静脈圧や中心静脈酸素飽和度は測定されないことが多い。今回、基本的なモニタリング下での重症敗血症に対する急速な輸液蘇生が予後にどのような影響を与えているか検討した。【方法】2013年1月から2015 年5月までに当施設に搬送され救急ICUに入室した重症敗血症42 例(生存27例、死亡15例)を対象とし予後で2群に分け後方視的に検討した。【結果】生存、死亡の2 群間に年齢(61.2 ± 15.8 vs.66.5 ± 4.5 歳)、搬送時SOFA score(10.2 ± 3.5 vs.12.3 ± 4.5)、搬送からICU 入室までの時間(6.8 ± 5.4 vs.6.1 ± 5.1時間)、入室までの体液バランス(65 ± 36 vs.69 ± 56ml/kg)、搬送時の乳酸値(4.6 ± 2.4 vs.7.0 ± 4.2mmol/l)、ICU 入室時の心臓拡張末期容量係数(747±257 vs.721±177ml/m2)および投与カテコラミン量に差はなかった。しかしICU入室時の乳酸値は(2.7± 1.3 vs.5.6 ± 4.1mmol/l)と死亡群で有意に高い傾向がみられた。【結論】ICU入室までの重症敗血症に対する蘇生輸液では、乳酸値の推移を含めた基本的なモニタリングを施行していれば過剰輸液は避けることが可能であり、輸液負荷による体液プラスバランスの上昇は憂慮すべきでないと考えられた。またこの時期の過剰輸液の発生頻度はまれである可能性が示唆された。