ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
-214-SY1-1 腹臥位換気横浜市立大学附属市民総合医療センター 麻酔科倉橋 清泰 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対して低容量換気が推奨されているが、最近それ以外の肺保護戦略の検討がすすんでいる。本講演ではそれらのうち腹臥位換気(PP)について紹介する。 最近出されたコクランレビュー(1)によると、PP は全体としては死亡率に影響しなかった。ただしsubgroup 解析では、組入れ基準を満たした早期から腹臥位を始めたもの、一日当り16 時間以上腹臥位にしたもの、そして試験参加時に重度の低酸素を呈していたものに限っては予後を改善した。メタ解析に用いられた無作為対照研究(RCT)のうち2013 年に出されたPROSEVA 研究(2)は重症ARDSに対する多施設共同RCTで、16時間以上の腹臥位を行う治療群で長期死亡率を41%から24% に有意に改善したことが示されている。 一方で、患者を腹臥位にする場合には様々な危険性を伴う。体位変換時の気管チューブやライン類の抜去や屈曲、バッキング、循環の大きな変動、関節や眼球などの損傷に加え、腹臥位時の顔面や加重部位の褥瘡が挙げられる。コクランレビューではPPで気管チューブの閉塞が有意に多いことが示された。New England Journal of Medicine のPROSEVA 研究のページでは腹臥位への体位変換のデモビデオを閲覧できる。3 人のメディカルスタッフが手際良く体位変換を行っているが、これを経験のない施設で初めて行う場合には経験者を招いて指導を受けながら4~5人で行うのが安全だろう。演者の施設では、腹臥位の代わりに左右交互に深め前傾位をとっている。この方法は経験の少ないスタッフも含めて2~3人で行う事ができ、先に挙げたPPで起こりうる合併症の危険性を相当減らすことができると考えられる。今までに行われたRCT のほとんどは対照を仰臥位としており、このような深め前傾位との比較は行われていない。 PP がARDS に対して予後改善効果があることの理論的根拠は、仰臥位で生じる背側無気肺が腹臥位で解除されることによるatelectraumaの防止にあると考えられる。早期に開始することや長時間施行することにより死亡率を減らす事実がそれを支持する。 本講演では、PP に対するRCTおよびシステマチックレビューの解説に加え、PPを生理/病理学的に検討し、その意義について考察する。文献1. Bloomfield R, et al: Prone position for acute respiratory failure in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Nov13;11:CD008095.2. Guerin C, et al. PROSEVA Study Group: Prone positioning in severe acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med 2013;368: 2159-68.シンポジウム 1 2月12日(金) 16:40~18:10 第2会場肺保護戦略up-to-dateSY1-2 肺保護戦略: 筋弛緩の有用性とそのメカニズムトロント大学 こども病院吉田 健史近年、重度ARDSに対する早期かつ短期間(48時間)の筋弛緩が、90 日後生存率を改善させるという臨床結果が示された(NEJM2010)。また、重度ARDS に対する筋弛緩の効果は、酸素化能を改善し(筋弛緩終了後も)その酸素化能を維持、血中及び気管支肺胞洗浄中のサイトカインの減少も伴っていた(CCM2004、CCM2006)。さらに、米国からの報告でも、severe sepsisで人工呼吸管理の患者に対して早期の筋弛緩の使用は、病院内の死亡率を低下させることが明らかとなった(CCM2014)。興味深いことは、筋弛緩群と非筋弛緩群間にプラトー圧や一回換気量など呼吸のパラメーターに全く差がないにもかかわらず、筋弛緩群は圧外傷(気胸や縦隔気腫)を減少させていた点である。この結果は、プラトー圧の制限 =肺胞に加わるstress(経肺圧 = プラトー圧 - 胸膜圧)の制限という概念に限界があることを意味している。自発呼吸温存時、横隔膜の収縮に伴い胸膜圧が低下する結果、プラトー圧を制限していても経肺圧が上昇し肺傷害の悪化につながることが動物実験を中心に分かってきた(CCM2013)。このセッションでは、補助的に作用し肺保護戦略を促進する筋弛緩の役割について述べる。