ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
-213-EDS7-5 小児急性脳症の集中治療日本大学 医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野澤田 奈実、櫻井 淳、伊原 慎吾、桑名 司、小松 智英、杉田 篤紀、山口 順子、小豆畑 丈夫、木下 浩作小児の痙攣重積後に意識障害が遷延し神経集中治療管理を施行したが、救命し得ない症例を時に経験し、急性脳症と診断される事が多い。急性脳症は、主にウイルス性感染症を契機に発症し、脳機能障害をきたす小児(特に乳幼児)特有の疾患である。近年、頭部MRI による画像的特徴や、臨床経過の特徴に基づき、様々な症候群が提唱され定着しつつある。しかし、詳細な病態生理は未解明である。特異的治療法が無いため神経集中治療管理が重要であり、特に痙攣重積発作の急性脳症に及ぼす影響を考察することが重要である。 痙攣が持続する事により、グルタミン酸などの神経毒性物質が産生され、海馬を始めとした神経細胞損傷をきたす。また、脳代謝が亢進し、脳酸素消費量が増加する。呼吸不全を伴う場合は、高二酸化炭素血症により脳血流量が増加し頭蓋内圧が上昇する。この状態をhyperemia と呼び、脳腫脹をきたす。この段階では可逆的反応である。しかし、低酸素の合併や脳代謝・頭蓋内圧亢進が持続すれば、脳虚血が進行し不可逆的な神経細胞障害を残す。 では、急性脳症はどうだろうか。急激な経過で、高サイトカイン血症による細胞性浮腫や血管性浮腫をきたすことが分かっている。つまり、脳機能の恒常性が低下し、脳血流自動調節能の破綻していることが考えられる。急性脳症では痙攣を合併することで、より病態を進行させ、脳虚血 による神経細胞障害が進行する。急性脳症では難治性痙攣重積発作の合併が予後と相関する。非痙攣性てんかん重積は、小児急性脳症では十分な報告がないが、成人のICU 入院患者の30%に存在するとの報告がある。小児急性脳症の昏睡症例でも見逃されている可能性が十分にある。したがって、痙攣を一刻も早く止め、適切な脳血流・代謝を維持することがとても重要である。 小児の急性脳症に対する、頭蓋内圧管理の適応や、適正な脳灌流圧は分かっていない。何を指標に管理するのかが未だ不明確なのである。私たちの施設には、年間50 例以上の小児の痙攣重積発作の患者が入院する。その中で、難治性痙攣重積発作から非痙攣性てんかん重積となった小児急性脳症の症例を経験した。痙攣重積の検出には持続脳波モニタリングが有用である。痙攣重積に対する薬物治療や、低体温を含む体温管理を行い、脳波を指標に管理する必要がある。さらに、脳血流・代謝の適正なバランスを評価するには、局所脳酸素飽和度(rSO2) モニタリングが有用である可能性がある。rSO2 をモニタすることで、呼吸管理上PaCO2 低下による脳血流の減少に伴う脳虚血を知ることができる。痙攣重積患者であっても急性脳症は15%程であり、重症化するのはわずか5%に満たない。しかし、初期診療の段階では急性脳症の診断は難しく、痙攣重積患者を早期からモニタリングし評価することが重要である。本会議では、小児急性脳症の病態と管理上の目標について議論したい。EDS7-6 Target Temperature Management日本大学 医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野櫻井 淳、山口 順子、杉田 篤紀、田上 瑠美、小松 智英、澤田 奈美、堀 智志、伊原 慎吾、木下 浩作【はじめに】様々な種類の傷害された脳(心停止後、新生児低酸素無酸素脳症、頭部外傷、脳卒中、肝不全等)の傷害後の温度管理は血圧や酸素化と同様に集中治療の管理項目として重要である。【本文】従来の温度管理では低体温療法(therapeutichypothermia)が良いとされていた。しかし、体温低下が必ずしも良い効果を及ぼすとは限らないのでtherapeutic という言葉は適切ではなく、体温管理の温度設定が37℃の場合がありhypothermiaという言葉も適切ではないとされた。よって、集中治療で傷害後の脳に対して温度管理することを体温管理療法(Targeted Temperature Management:TTM)と呼ぶことが推奨されている。一般的には脳傷害後の高体温は病態を進行させ転帰を悪化させるために避けることが望ましいとされているが、傷害脳に対する適切な温度は未だ議論が多い。Nielsenらは院外心停止蘇生後に33℃と36℃に体温管理した結果、33℃群と36℃群は死亡率、神経学転帰共に両群に差はみられなかったと報告している。本研究では体温のぶれがおおきいこと、神経学的転帰の評価が早すぎることが問題と考えられた。心停止蘇生後に関してはInternational Liaison Committee on Resuscitationでは「体温管理療法施行時には、32~36℃の間で目標体温を設定し、その温度で一定に維持することを推奨する」としており「特定の心停止患者において、低い目標体温(32~34℃)と高い目標体温(36℃)のどちらがより有益であるかは不明であり、今後の研究でこの点が明らかになるかも知れない」としている。心停止蘇生後に関しては1)心停止後脳障害の重症度を蘇生後早期に測定することが可能か、2)脳障害の重症度によってTTMの管理温度を変えることは必要か、3)心停止の原因により蘇生後の脳障害は同じなのか等の検討が必要である。【結語】心停止蘇生後や新生児低酸素無酸素脳症は臨床的にTTM の有効性が証明されたが未だ課題が多い。脳障害の病態や重症度で集中治療室でのTTMの方法(適切な管理温度や期間)や妥当性を検討していく必要がある。