ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-209-EDS4 敗血症の病態と治療―病態の概要と治療の全体像―鹿児島大学 医歯学総合研究科 救急・集中治療医学分野垣花 泰之敗血症の病態解明は、分子生物学的研究の目覚ましい進歩に伴い飛躍的に進み、ショウジョウバエのToll の発見後,ヒトのホモログToll 様受容体(Toll-like receptor;TLR)の発見,そのリガンドの同定へと展開してきた。その中で、免疫担当細胞や血管内皮細胞に存在するTLRは、リポ多糖や、鞭毛フラジェリン、二本鎖RNAなどの外来微生物に特徴的な分子パターン(PAMPs)を感知することにより、細胞内にシグナルを伝達し、NF-κBなどの転写因子を活性化させ、各種血管拡張物質、炎症性サイトカイン,接着分子、凝固活性化物質などが、転写段階から過剰に産生されることが示されている。つまり,感染症という非常事態に際して生体は、炎症反応、免疫反応をはじめとした生体防御反応を立ち上げ、血管を拡張させ、血流を増やして、白血球や血漿タンパク質を効率よく標的部位へ輸送するが、その過程の中で、血管拡張物質の過剰産生に伴う血管拡張性ショックが発生する。ショックにともない内因性のダメージ関連分子パターン(DAMPs)が細胞外に漏れ出し、NF- κ Bの活性化を介して多種類の炎症性メディエータの産生を誘導し、さらなる臓器障害の進行を引き起こす。敗血症性ショックに対する治療のポイントは、全身性炎症反応症候群(SIRS)を誘導する過剰な外来微生物の構成成分であるPAMPs をできるだけ早く除去することであり、1 時間以内の抗菌薬の投与と早期の感染巣除去・ドレナージが最も重要である。次に、できるだけ早期にショックからの離脱を図り、細胞内から放出されるDAMPs をコントロールすることである。SSCG(surviving sepsis campaign guideline)や日本版敗血症診療ガイドラインでは、敗血症性ショックに対する治療戦略としてEGDT(early goal directed therapy)を推奨している。EGDTとは、敗血症性ショックにより低下した酸素供給量O2 delivery(DO2)に対して早期に対処し、6時間という制限時間内に臓器灌流異常を改善するという蘇生法のことである。具体的には、敗血症性ショックに対し、初期輸液蘇生(30ml/kg)を行い、それでも血圧低下が持続する場合には昇圧薬(ノルアドレナリン等)の投与を推奨している。つまり、EGDTとは、6時間以内に酸素供給量を維持することによりDAMPs の放出をできるだけ早期に防ぐための治療法である。まとめると、敗血症性ショックの治療戦略は、できるだけ早くPAMPsを除去し(減少させ)、さらに循環を改善しDAMPsの放出をできるだけ早期にコントロールすることである。今回の基礎セミナーでは、敗血症性ショックの病態を解説し、次になぜこのような治療戦略が必要なのかを、EGDTに関する最新の見解も含めて分かり易く概説する。教育セミナー 4 2月13日(土) 9:20~9:50 第10会場基礎セミナー1EDS5 敗血症に対する急性血液浄化療法済生会横浜市東部病院 臨床工学部森實 雅司日本版敗血症診療ガイドラインの急性血液浄化療法CQ1~3に焦点を当て、臨床工学技士(CE)が知っておくべきポイントを含め解説する。【CQ1】敗血症性急性腎障害(AKI)に対する腎代替療法(RRT)の開始時期は?【A1】血中尿素窒素、クレアチニンなどの腎機能を指標としたRRTの開始時期に明確な基準はない(2C)。初期蘇生を行っても尿量が得られない重症敗血症、敗血症性ショックでは、早期開始を考慮してもよい(1C)。【CEの知るべきポイント1】敗血症性AKIにおけるRRTの開始基準の一定した見解はない。施設や担当医によって開始の基準は異なるが、初期蘇生を行っても6時間以上にわたり尿量> 0.5ml/kg/h が得られない重症敗血症、敗血症性ショックにはより早いRRTの開始を医師に提言してもよいかもしれない。絶対適応にpH<7.2の代謝性アシドーシス、K>6.5mEq/Lの高カリウム血症、相対適応に乏尿が6~12 時間持続、尿毒症(BUN> 60~80mg/dL)、溢水などがある。【CQ2】敗血症性AKIに対するRRT は、CRRT、IRRTのどちらを用いるべきか?【A2】CRRT はIRRT に比較して予後を改善するというエビデンスは得られていない(2A)。しかしながら、循環動態が不安定な患者には体液バランス管理の点からもIRRT ではなくCRRT またはSLED を推奨する(1C)。【CEの知るべきポイント2】血液浄化療法の選択では循環の評価が重要であり、CEは医師が行う循環の評価を理解する必要がある。重症敗血症・敗血症性ショックの進行は、血圧低下のみでなく代謝性アシドーシスの進行、血中乳酸値の上昇、中心静脈血酸素飽和度の低下などが指標とされる。心エコーを用いた心機能・心前負荷の評価による輸液管理の適正化なども行われる。初期蘇生における血管作動薬はノルアドレナリン(0.05 μg/kg/min~)が第一選択とされ、その使用量も評価の指標となる。ATN study(PMID: 18492867)では体液過剰群で高い死亡率が示され、体液バランス管理が容易なCRRTが重症患者管理に有効と考えられる。SLEDは循環への影響はCRRTと同等との報告もあり、特に施設の体制としてCRRTが困難な場合などに選択肢として考慮してみる価値はある。【CQ3】敗血症性AKIに対するRRT の至適血液浄化量は?【A3】予後と浄化量(透析液流量と濾過液流量の総和)に関するエビデンスの高いRCT は複数存在するが、至適浄化量を見出すには至ってない(1A)。【CE の知るべきポイント3】KDIGO のガイドラインでは20~25ml/kg/hが推奨されているが、20 ml/kg/hを推奨できる報告や40ml/kg/h以上を推奨できない根拠もない。本邦の保険で認められた浄化量は16~20L/dayであり、成人男性の平均体重65kgから計算するとこれは9~12ml/kg/h となる。国内からは20~25ml/kg/h と比較して平均14.3ml/kg/h でも予後の悪化を示さないという報告(PMID: 23939357)もあり、日本の低流量が悪いという根拠も存在はしていない。教育セミナー 5 2月13日(土) 9:50~10:20 第10会場基礎セミナー2