ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
-207-EDS1-3 頭蓋内圧モニタリングの現況東邦大学医療センター大森病院救命救急センター本多 満 重症脳損傷に対する治療目標は受傷そのものによる一次性脳損傷ではなく、その後に生じる二次性脳損傷を最小限に抑えることである。この二次性脳損傷を抑えるために、それを引き起こす頭蓋内要因および全身性要因による傷害を予防するために、各種モニタリングを用いて集中治療を行なっているのが現状である。これらの要因による二次性脳損傷の基本的病態は脳虚血であると考えられるが、現在のところ脳循環代謝をモニタリングとして使用するのに理想的なデバイスは存在しない。特に、血腫あるいは浮腫などによる占拠性病変による脳損傷においては二次性脳損傷を引き起こす頭蓋内要因としては頭蓋内圧亢進による脳ヘルニアや脳虚血が考えられる。このような病態に対して治療を行なううえで、病態の評価、治療による効果判定、転帰の推測を行なう際に頭部CT検査による器質的異常の局在、広がり、周囲脳への影響などの評価を行なうことは必要であるが、これら画像検査はsnapshot的なものであり時間的経過の中でのモニタリングとしては限界がある。また、頭蓋内圧が亢進している患者においては薬剤による鎮静・鎮痛・非動化により神経所見を得ることは困難になる。このため、ベッドサイドにおいてリアルタイムに頭蓋内環境の評価が可能な検査が有用であるが、集中治療の場においては、中枢神経系におけるモニタリングは限られており現在のところ持続脳波モニタリング、内頸静脈酸素飽和度などと並ぶ1つとしてICP(頭蓋内圧)モニタリングがある。このICP測定に関して、ガイドラインにおいて明らかに推奨されているのは重症頭部外傷のみであるが、重症クモ膜下出血、頭蓋内圧の亢進した重症肝不全や脳炎などにその適応があると考えられており臨床の場において施行されている。しかし、その一方で重症頭部外傷においてさえ、その施行率はあまり高くなく、ICP測定により転帰の改善はみられないとの報告もあり、他の中枢神経系に対するモニタリングとの併用が望ましいと考えられる。今回は、このICPの測定に関して、適応病態、測定方法およびその種類、重症頭部外傷に対するガイドラインからモニタリング開始の適応、治療におけるモニタリング数値に対する対応、持続モニタリングの有効性と限界を述べたい。EDS1-4 脳内酸素飽和度から脳循環代謝を学ぼう1)山口大学 医学部 脳神経外科、2)山口大学 医学部附属病院 先進救急医療センター末廣 栄一1,2)、鈴木 倫保1)神経集中治療の目的は、神経救急患者の一次性脳損傷後にみられる脳血流や脳代謝の異常を可能な限り抑制して、二次性脳損傷を防ぐことである。そのためには、頭蓋内圧・脳灌流圧を管理し、” 脳の酸素化” を維持することが重要である。頭蓋内圧を管理するためには、頭位挙上や過換気療法、脳室体外ドレナージ、脳低温療法、バルビツレート療法など脳特有な治療法が必要となる。ただし、適切な循環管理や呼吸管理、輸液管理などの脳指向型の全身管理がその前提として重要となる。統括的な治療を的確に行うためにはモニタリングにて頭蓋内病態を知ることが肝心である。神経集中治療分野で、最も有名なモニタリングとして頭蓋内圧モニタリングが挙げられる。頭蓋内圧モニタリングの目的の一つは、占拠性病変や脳浮腫などによる頭蓋内圧亢進を予知し脳ヘルニアを防ぐことにある。もう一つの目的として、脳灌流圧を算出し間接的な脳血流モニタリングとして利用し、“脳の酸素化”の維持に努めることである。脳灌流圧は50~60mmHg以上に維持するように推奨されているが、実際の適正値は個々の症例により異なっている。なぜなら、神経救急患者の脳血管の自動調節能は障害されていることが多いため、正常脳のように一定の脳灌流圧にて一定の脳血流が維持されているわけではないからである。神経救急患者では、脳灌流圧と脳血流は直線的な比例関係となってしまうため脳灌流圧が高過ぎると脳腫脹を認め、低すぎると容易に脳虚血となってしまう。つまり、神経救急患者においては脳灌流圧の管理による脳血流維持は困難であり、直接的な“脳の酸素化”の指標が必要となる。“脳の酸素化”を確認する方法として頸静脈球酸素飽和度(SjO2)がある。この指標は、SjO2 = SaO2 - CMRO2/(1.39 x Hb x CBF)で示されるように、脳血流と脳酸素代謝の比で決定される。SjO2の値は55~80%が正常とされている。異常低値では、脳酸素代謝に比べて脳血流が低下しているか、あるいは脳血流に比べて脳酸素代謝が亢進している状態、つまり脳虚血を示している。また、異常高値では、脳酸素代謝に比べて脳血流が増加している過灌流、あるいは脳死状態などの脳酸素代謝が異常に低下している状態を示している。臨床的にはSjO2 が異常低値を示すときの病態は、脳灌流圧の低下(全身血圧の低下)や過度な過換気療法、循環血液量の低下、動脈血酸素飽和度の低下、貧血、痙攣・高体温などによる脳酸素代謝の上昇、脳血管障害に伴う脳血流の低下などが挙げられる。また、SjO2 が異常高値を示すときの病態としては、脳充血や脳酸素代謝の低下(脳死状態、低体温)、全身血圧の上昇などが挙げられる。本セッションでは、SjO2 の値がもつ意味を理解し、このモニタリングを指標として頭蓋内のみならず全身状態の統括的な管理が行えるようになることを目標とする。