ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集
-200-EL25大阪大学医学部附属病院 集中治療部内山 昭則ARDSにおいて低一回換気量VTを維持する肺保護換気は重要であるが、ICUの人工呼吸患者では自発呼吸努力が強く、大きなVTを呈することも多い。1.換気量の制限はどこまで必要か。2015年にARDSの研究データを用いた解析が報告され、予後に影響するのはVTではなくDriving pressure(ΔP=VT/呼吸器系コンプライアンスCRS)であるとされた。コンプライアンスの高い肺ではΔPが大きくならなければVT≦6 ml/kgPBWにこだわらなくてもよいこととなる。また、Δ P は真に肺にかかる圧(経肺圧=気道内圧-食道内圧)で考えるべきである。胸郭コンプライアンスの影響を除くためにも、Δ P の評価にも食道内圧の測定が重要である。ICU 患者の多くでは最大吸気陰圧は30 cmH2O 以上であり、自発呼吸努力の存在はΔPを大きくする要因になりうる。また、手術中の人工呼吸の研究でも高VTは術後の呼吸器合併症につながっている。やわらかな肺ではVTを考慮しなくてよいとはいえず、強すぎる自発呼吸努力には留意が必要である。2.強い自発呼吸努力をどのように抑制すべきか〇鎮静鎮痛:痛み、不快感や呼吸困難感が自発呼吸努力を強め、VTや経肺圧の増大につながる。しかし、鎮痛鎮静だけでは呼吸努力の抑制が難しいことも多い。阪大病院ICUにおいて1 年間の人工呼吸開始14 日以内の動脈ガスと換気データを後方視的に調べた。RASS-4以下の深鎮静状態かつP/F比が300以下の場合、ほぼ半数は8 ml/kgPBW以下を満たしていなかった。麻薬がVTの増大に関係しており、鎮痛鎮静で吸気努力を制限することの限界を示唆された。○人工呼吸条件:先の検討では吸気気道陽圧はVT制限に大きく関与しておらず、VTが大きな場合に吸気陽圧が高い傾向があった。VT を制限するために単に気道内圧を制限するだけでは限界があるようである。PEEP を高めることに効果がないかを検討中である。○酸塩基平衡:われわれの検討ではVTが低い群ではHCO3 -が高く、HCO3 -とVTには弱い負の相関がみられた。自発呼吸努力の強さにはアシデミアが関与するが、重炭酸ナトリウムは炭酸ガスを発生するため換気量の制限につながらない可能性が高く、呼吸性アシドーシスへの投与は一般的ではない。アシドーシス治療薬のTHAM は炭酸ガスを発生せず、肺傷害患者に投与されたという報告もある。○ ECMO:人工肺で炭酸ガスの排出をはかることが有効である可能性が高くECMO という選択肢もある。3.人工呼吸中の自発呼吸努力の他の問題点VT を制限しても不同調によって肺傷害が起こる可能性もある。とくに2回トリガーや逆トリガーでは見かけのVT は小さくとも実はVTは大きい。また、見かけのVTが小さくても肺内ガスの移動によって部分的に換気量が増大し肺傷害が発生するペンデルフト現象もある。人工呼吸条件によってペンデルフト現象への対処ができないかとモデル肺を用いて検討したが、良い換気条件をみつけることは難しく、対処法は今後の課題である。教育講演 25 2月13日(土) 10:00~10:50 第4会場自発呼吸を温存しながら低一回換気量を維持するにはEL26山形大学医学部附属病院 高度集中治療センター中根 正樹ARDSに対する人工呼吸では人工呼吸関連肺傷害(VALI)を回避するために最高気道内圧(プラトー圧)の制限と肺障害の重症度に合わせたPEEP 設定が重要と考えられる。しかし、どの程度のPEEPを用いれば最も良いのかという適確な指標がないのが現状であり、現在でも多くの研究者により模索されている。古くは酸素化やシャント率を指標にする方法からはじまり、やがて肺保護という観点から呼吸生理学的な評価へと移り変わり肺コンプライアンスを指標にする方法、実用性という意味からFIO2 とPEEPの組み合わせをあらかじめ決めておいて一定のPaO2をターゲットにその組み合わせを選択していく方法、食道内圧を測定しそれを指標として経肺圧という観点からPEEP設定を行う方法などが報告されている。しかしおそらくは個々のARDS患者における肺の状態の違いが原因となりそれらの研究結果は一定ではなく、虚脱肺がリクルートされる可能性やその割合、肺傷害の均一性の問題と不均一な場合の局在性の問題、循環の予備力などに左右される可能性がある。呼吸生理学的なアプローチはもちろんのこと循環に関する知識や技術も必要となる。VALIを鑑み肺保護のことだけを考えるのなら最も肺コンプライアンスが高くなる条件で人工呼吸を行うことが理想的である。最近では陽圧換気によるDriving pressureが高い方がARDS 患者の転帰を悪化させ、低ければ改善するといった可能性を示すデータも示されており、そういう意味で肺コンプライアンスを改善させる方法とその状態を維持しながら人工呼吸を継続するための方法が重要となってくる。前者では肺胞リクルートメント手技、後者ではPEEP 設定ということになる。しかしながら、ここまでの概念では肺をひとつのまとまった“ 風船” のように捉えていることが問題であり、胸壁コンプライアンスも考慮されていない。また、肺傷害の局在性を考慮するならCT画像による評価が最善のようにも考えられるが、ベッドサイドでCT 撮影を行うには放射線被曝という観点から現実的ではない。CT室へ移動してPEEP タイトレーションを行い最適なPEEPを選択したとしてもその時点での肺の状態における評価でしかなく、その後の経過にまで追随することはできない。EITでは換気の局在性をベッドサイドでリアルタイムにモニタリング可能であるが、それでも厳密な意味で最適なPEEP と言えないであろう。もう1つの大きな問題は、高い胸腔内圧は少なからず循環抑制を招き低心拍出状態となる危険性を秘めているということである。また、強い自発吸気による肺傷害の誘発や筋弛緩薬投与の是非も含めて、ARDS 患者のPEEP 設定においては単純な解釈は禁物であり、まだまだ解決されるべき課題が多いのが現状である。教育講演 26 2月13日(土) 15:40~16:30 第4会場最適PEEPへのアプローチ