略 歴
1988年生まれ。日本赤十字社和歌山医療センターで初期・後期研修を行う傍ら、臨床研究に携わり始める。2018年に亀田総合病院集中治療科へ異動し、集中治療専門医を取得するとともに臨床研究の経験を積み、海外留学を志す。2022年4月より亀田総合病院を休職し、イタリアで臨床研究留学する。2年の留学を経て2024年3月より亀田総合病院集中治療科に復帰する。主な研究分野は循環動態管理、急性腎障害、鎮静。

公開日:2024年3月26日 ※所属・役職等はすべて記事公開時点のものです

きっかけは命の危機に瀕した患者さんが回復する過程を目の当たりにしたこと

Q 集中治療の魅力とは?

初期研修の半ばまでは他の科に進もうと思っていましたが、初期研修中にローテートした集中治療科で、命の危機に瀕した患者さんたちが回復していく過程を目の当たりにしたことから、集中治療にやり甲斐を感じ、集中治療医を志しました。

私にとっての集中治療の魅力は、①重症であればいかなる疾患でも受け入れる間口の広さ、②刻一刻と変化する重篤な病状に対して、即座に適切な判断を迫られる緊張感、③他の専門家や専門職種とのコラボレーションの3つです。

Q 集中治療との関わり

日本での所属先である亀田総合病院集中治療科は、麻酔科や救命救急科とも独立した診療科だったので集中治療に専従していましたが、現在は休職扱いでイタリア留学の機会を得ていて、集中治療領域の臨床研究に専念しています。

“集中治療科のおかげで手術に集中できる” ―――我々の日常診療そのものがその存在意義

Q この道に入って感じたこと

当初は集中治療医のアイデンティティを見出し辛かったです。手術や内視鏡などその科独自の手技を持たない集中治療医にしかできないことはなんだろうかと自問することもありました。そんな時、ある外科医からこんなことを言われました。

「前の病院はopen ICUで術後も全部自分で診ていた。手術中でもICUからのコールに対応しないといけなかったし、経過が複雑化したケースではどう対応すべきかわからなかった。でも、今は集中治療科に任せられるおかげで自分は手術に集中できる。」

この言葉に、重症患者を診療するという集中治療医にとっての日常そのものが、自分たちの専門性・存在意義だと気付かされました。

新たな国でのネットワーク構築をめざす―――人間性も成長する留学のよさ

Q これまで所属してきた施設を選んだ理由

まずは患者さんを多く経験したいと思い、初期研修に続いて日本赤十字社和歌山医療センターで医師3–5年目を過ごしました。

この時期から海外留学を志し、留学経験者である林淑朗部長のいる亀田総合病院に異動しました。完全シフト制で、研究・留学準備に時間を割けたのも大きかったです。

そして留学先である、イタリアのVita-Salute San Raffaele Universityを選んだ理由は2つで、①指導教官のGiovanni Landoni教授の専門分野が循環動態で私自身の興味と一致したこと、②日本人留学者の少ない国で新たなネットワークを構築したいと思ったことです。

Q これから力を入れていきたい分野

留学から帰国後に特に注力したいのは、教育、研究、留学支援の3つです。

①教育:診療のスキルアップを図るために若手教育に時間を割きたいです。また最初は誰にとってもとっつきにくい研究に対するハードルを下げるような教育も行っていきます。
②研究:教育を通して加わってくれた仲間たちと一緒に研究を行う中で、留学中に身につけた知識や経験を次の世代にも伝えていきたいです。
③留学支援:私にとって留学は、研究者としてだけでなく、一人の人間として成長させてくれた貴重な経験でした。将来留学を希望する方がその夢を叶えられるよう、微力ながら支援をしていきたいです。

多職種の結集が質の高い集中治療のもと

Q 多職種連携で大切にしたいこと

亀田総合病院のICUには、医師、診療看護師、看護師、臨床工学技士、薬剤師、管理栄養士、理学療法士が専従しています。多職種の専門性を結集できて初めて安定して質の高い集中治療が実践できるので、私から積極的に意見を求めるようにしています。

Q 印象に残る経験

専門職ならではの意見をくれるスタッフにはいつも助けられています。気管チューブ閉塞の兆候にいち早く気づいてくれたベッドサイドナース、離床をもっと進められると提案してくれた理学療法士、透析中の血圧低下の兆候を見つけくれる臨床工学技士、バンコマイシンの投与設計をしてくれる薬剤師、脂質や微量栄養素についても助言をくれる管理栄養士、などなどここには書ききれないくらい、たくさんのエピソードが思い浮かびます。

やりがいがありかつオンオフのとれた生活のできることが集中治療医の魅力、家族と元気に幸せに、が目標

Q 次世代の仲間へのメッセージ

私にとって集中治療医の最大の魅力は、オン・オフのバランスが取れている点です。特に完全シフト制なら、勤務中は業務に集中して多くの学びが得られる一方で、休みも十分確保されています。集中治療医は、やり甲斐のある仕事と充実したプライベートを両立できる選択肢だと思います。

Q 10年後の自分へ

留学から帰国して10年という節目の年ですね。この10年にやりたいと思っていたことをどの程度達成できたでしょうか。ただ、何よりも大事なのは、家族と元気に暮らすことです。留学経験を活かして仕事ができていて、自分と家族が健康で幸せに過ごすことができていたら、それで十分です。