TO JOIN THE INTENSIVE CARE TEAMインタビュー 児島 範明
略 歴
1984年大阪府生まれ。作業療法士。学生時代より学会参加をしており、そこで出会った先生に誘われ急性期の世界へ。大阪保健医療大学院(修士課程)を卒業、関西電力病院に勤務している。現在は、JSEPTIC リハビリテーション部会 コアメンバー、集中治療医学会集中治療PT・OT・ST委員会の委員を務めている。主な研究テーマは「ICUでの作業療法」「ICUでの認知・コミュニケーション手段について」など。

公開日:2024年8月8日 ※所属・役職等はすべて記事公開時点のものです

Q 集中治療の魅力とは?

教育ローテーションの一環としてICUを経験しました。その頃のICUでは、作業療法が必要という認識は殆どありませんでした。そこで、私は理学療法士や看護師と共に離床やADL練習だけでなく、患者さんの生活背景を生かした活動やICUで生活しやすい環境調整を行ったり、挿管患者さんへのコミュニケーション支援、せん妄評価、認知機能への介入を展開する中で、集中治療医から「こっちの患者さんにもやってよ」と依頼が増えICUに頻繁に出入りするようになりました。この経験を通してICUの患者さんは急性期ケアにおいて作業療法が有益であることを実感し、今でも続けているのだと思います。
集中治療の魅力は、急性期の最前線として機能障害を予防的に対処でき、ICUから患者さんの生活を繋げ社会参加できる点です。“ICUから社会参加?”と思うかもしれませんが、患者さんが集中治療に向き合うこと、医療者と意思疎通を図ることが社会参加の第一歩となると考えています。集中治療における作業療法の価値を広め、患者さんの総合的なケアに貢献できることを誇りに思います。

Q 集中治療との関わり

“ICU+リハビリテーション部感染管理”
COVID-19パンデミックを契機に、リハビリテーション部内の感染管理担当となりました。業務は、ICU内でのCOVID-19診療だけでなく、その他の感染症対策も包括的に実施しています。半日はICUを含む患者に作業療法を提供し、残りの時間は部門内の感染管理に従事しています。

Q この道に入って感じたこと

生死や機能の濃淡を強く感じるこの領域は、リハビリテーションの観点からも稀有なものです。挿管、鎮静、せん妄、不穏など意思疎通を阻害されるICUだからこそ、作業療法士が「ICUで生活を支える」役割を構造的に捉え、治療的に貢献できる領域であると感じています。

PICSを減らすために、作業療法士だからできることがある

Q これまで所属してきた施設を選んだ理由

学生時の実習先であり、就職先を探していたとき、学会で出会った上司に誘われました。
特に、急性期の様々な疾患に対するリハビリテーションの経験を得る機会があり、それが私の就職を希望する大きな理由となりました。

Q これから力を入れていきたい分野

ICUからPICSの予防、できる限りPICSを最小限に! 特に、ICU退室後の認知機能障害に対するリハビリテーションの体系構築に寄与できればと考えています。認知機能と一言で言ってもイメージしづらいかもしれませんが、作業療法士は患者さんのこれまでの生活背景や文脈を治療に反映させ、患者さんの主体性を如何に引き出すのかが問われます。患者さんとの意思疎通を通して形成される作業療法において、ICUから認知機能障害を予防・軽減することがよりよい生活を支える基盤になると考えています。

ICUでの作業療法は発展途上、作業療法士の活躍の場を広げる活動をしていきたい

Q 今後のキャリア

まだまだ集中治療領域における作業療法士の認知度やICUに参画する作業療法士の数が少ないのが現状です。特に“教育”と“エビデンスの不足”、“作業療法士の役割の不明確さ”は、作業療法士がICUで働く障壁となっております。私は、集中治療PT・OT・ST委員会での作業療法士の委員を拝命させていただいており、その活動を通して集中治療領域における作業療法士の教育体制やエビデンスの構築に少しでも貢献できればと思います。

Q 多職種連携で大切にしたいこと

当院では、ICUからの患者ケアはPT、OT、STだけでなく、医師や看護師と協力し、機能に合わせた自助具やコミュニケーションツールを提供し、PICS Followを通じて回復期リハビリテーションを提供しています。現在はリハビリテーション部で実施している内容ですが、今後は各診療科全体がPICSをもつ患者の支援に参画する取り組みを強化したいと考えています。

Q 印象に残る経験

たくさんあってなかなか選べませんが、共にICUの診療を続けてきた理学療法士がいたから、切磋琢磨できバーンアウトせずに続けられてたのかなと思います。

Q 次世代の仲間へのメッセージ

ICUの患者さんは、些細なことでも気づいてほしいと声にならない想いを抱いています。集中治療での作業療法士は、その患者さんの想いを治療に変える力があります。突然の疾患による孤独と不安に立ち向かい、患者さんと共闘するきっかけを作る仕事です。

Q 10年後の自分へ

10年後の私へ。今の経験を活かし、患者さんとチームに対する共感と協力を忘れずに診療していますか? 本邦における集中治療領域の作業療法士の世界が少しでも変わっていることを期待しております。