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理事長 西村匡司
 徳島大学大学院救急集中治療医学 教授

 第43回日本集中治療医学会学術集会終了後より理事長を拝命しました。氏家良人前理事長は在任中に大きな成果を上げられたことは会員のよく知るところです。ただ、全ての課題が解決されたわけではありません。前理事長の成果を引き継ぎ、日本集中治療医学会の発展に微力ながら尽力していく所存です。

診療報酬改定により特定集中治療室管理料が2段階となって以来、集中治療専門医試験受験者の数が急増しています。学会主催の各種セミナーへの参加者も多くなっています。しかし、診療報酬改定に伴う一時的な関心の高まりである可能性があります。集中治療の重要性、価値を確立するにはこれからが勝負です。集中治療とはいかなる医療であるかを明確にし、集中治療に携わる優秀な医療従事者を育てる継続的な努力が必須です。

集中治療とは何かを国民に発信することは重要です。それには我々が集中治療とはいかなる医療であるかを認識しなければなりません。集中治療の原点はFlorence Nightingaleであると言われます。しかし、当時は高度な医療機器のない時代であり、現在の集中治療に直結するものではありません。1950年代、ヨーロッパにおけるポリオの流行時にBjorn Aage Ibsenが陽圧換気を行った経験から近代ICUの基ともいえるICUを開設しています。また、米国で提唱されたprogressive patient care programにおける患者の重症度を基本に医師、看護師を配置する概念で現在にも通用します。しかし、今やICUは病院の中央診療部門としての役目だけを果たしている時代ではありません。対象とする患者・疾患だけではなく時間的・空間的に活躍の場は広がり集中治療の役割も変化しています。

集中治療は疾患の治療ではなく生命を脅かす急性の臓器不全に対応する医療です。疾患の治療ではなく不全臓器の治療をするという点が集中治療医学の特徴です。あらゆる臓器不全に対応しなければならず分野横断的な知識、技量が要求されます。活躍の場はERや院内各所での急性発症の重症患者の評価・蘇生・治療、ICU生存退室、退院後のリハビリテーション、さらには治療だけではなく患者家族のサポート、終末期医療に対する心のケアにまで及んでいます。このように広い範囲に渡り、質の高い集中治療を国民に提供するには医師だけではなく看護師、臨床工学技士、呼吸療法士、理学療法士、薬剤師、微生物学者、ソーシャルワーカー、倫理学者など極めて多彩な職種の協力が必要です。もう一つの集中治療の特徴がこのチーム医療です。集中治療は熟練した医療従事者のチームによる急性臓器不全の治療です。分野横断的な知識・技量に加えてリーダーシップが重要な因子となる所以です。

質の高い集中治療を提供できる医療従事者を輩出する教育システムの開発・充実は喫緊の問題です。必要な知識・技量、医療現場で発揮すべきリーダーシップを培うための教育です。教育プログラムにはリフレッシャーセミナー、MCCRC in Japan、終末期医療における臨床倫理問題に関する教育講座、ICU・CCU看護教育セミナー等があります。いずれも充実したものですが改善の余地はあります。実技の習得も重要な課題です。質の高い医療レベルを維持するには教育以外に自己管理・評価システムも必須です。知識の刷新とともに継続的に医療を向上させるシステム構築が求められます。Continuous quality improvementは本学会にとっては重要な課題です。

集中治療の境界はなくなりつつありますが、ICUという確固たるスペースで確実な医療を提供することが私達の原点であることに違いはありません。重症患者が社会復帰できる医療を提供できるような集中治療の専門家を育てること、ICUで働くことに誇りを持った専門家を育てること、院内ばかりではなく広い医療システム内においてリーダーシップを発揮し医療システム全体の医療レベルを高める能力を持った専門家を育てることが本学会の使命です。浅学菲才ながら日本における集中治療医学の発展に尽力する覚悟です。会員の皆様のご協力・ご指導の程よろしくお願い申し上げます。

平成28年4月8日